地域ぐるみのエゾシカ対策

5年前から囲いわなによるエゾシカ捕獲に取り組んでいる厚岸町。どのように成果を上げたのか、農業被害は軽減したのか、厚岸町環境林務課に聞きました。

この記事は2021年6月1日に掲載された情報となります。

厚岸町 環境林務課 課長 鈴木 康史さん

厚岸町 環境林務課
課長 鈴木 康史さん

7年前の農業被害は3億円以上

厚岸町のエゾシカ被害の大半は牧草地での食害です。環境林務課の鈴木康史課長によると被害のピークは2014年度で、牧草、牧草ロール、デントコーンを合わせた被害額は3億3000万円にのぼったそうです(図1)。

厚岸町のエゾシカ被害額と捕獲頭数の推移(2009〜2019年)
図1. 厚岸町のエゾシカ被害額と捕獲頭数の推移(2009〜2019年)

厚岸町では野生鳥獣による農林業被害を減らすため、1997年度から役場を中心に農業委員会、JA釧路太田、森林組合、北海道猟友会厚岸支部などで野生鳥獣被害対策協議会を組織。官民協働で野生鳥獣被害の対策に取り組んできました。

エゾシカについては銃による駆除を行ってきましたが、冬場は市街地近くに出没するため銃を使えません。このため2016年度、農林水産省の鳥獣被害防止総合対策交付金を活用して囲いわなを導入することにしました。

監視カメラで遠隔操作も可能

囲いわなを設置したのは役場から2キロ離れた町有地。エゾシカの出没地で、エゾシカを搬出する4トン車が入りやすい場所にしました。ところが1年目は捕獲数ゼロ。「シカは決まった道を通るので、事前にシカ道を調べないとうまくいかないのだと分かりました」

そこで2年目は、シカ道の真上に囲いわなを設置。更に北海道のわな捕獲技術等向上事業を活用し、アドバイザーから効果的なエゾシカの誘引方法について助言を受けたところ、72頭を捕獲できました(写真1)。

写真1. 1号わな
運搬ボックスまで追い込むための通路を設けています。冬場の餌はルーサンヘイ※やヘイキューブ、夏場はビートパルプのペレットを使います。個体数を減らすためメスを優先して捕獲。シカが外へ出ようとして暴れると傷ついて商品価値が下がるので、わなに慣れて頻繁に入るようになったらパネルの金網に暗幕を張ります。
※アルファルファを乾燥させたもの。圧縮したものがヘイキューブ。

1号わな

また、1年目はシカが入ると自動的に扉が落ちる機械式のゲートでしたが、翌年からは農水省の鳥獣被害防止に係る事業を利用して、ICT による遠隔監視システムを導入(写真2)。シカの侵入を検知するとスマホにメールが届き、監視カメラの映像を見ながら遠隔操作で扉を落とせるようになりました。

4頭以上捕獲すると、翌日以降に約80キロ離れた阿寒グリーンファーム(釧路市)が引き取りに来てくれ、養鹿牧場を経て食肉に加工されます(写真3)。

遠隔監視システムの映像
写真2. 遠隔監視システムの映像
搬出の様子
写真3. 搬出の様子

今後は箱わなも設置予定

当初は冬期間のみの運用でしたが、3年目の8〜10月にも設置してみたところ16頭を捕獲。雪のない時期でも有効だと分かり、現在は夏と冬、年に2回の捕獲を行っています。2019年には新たに2号わなも導入し(写真4)、設置場所も町内2カ所に増えました。

2号わな
写真4. 2号わな
2号わなは金網ではなく、わなに慣れてからコンパネをはめ込む仕様。パネル式なので、形や大きさを柔軟に変えることができます。組み立ては役場の職員が4人で2日がかり。民間の協議会メンバーが2日に一度餌を置き、監視や追い込みは役場職員と役割分担しています。

2号わな

「年間2000頭以上を銃で駆除し、市街地周辺では囲いわなで100頭の捕獲を目指していますが、農業被害額はまだ1億円以上。今年度は更に小さな箱わなを導入して、被害のある場所にピンポイントで置く予定です」と鈴木課長。

さまざまな手法を組み合わせてエゾシカ対策を強化していく計画です。