農業現場で社員やパートの方と上手にコミュニケーションを取り、指示を的確に伝えるための方法を、徹底された生産方式で知られるトヨタから学びます。
この記事は2022年6月1日に掲載された情報となります。
トヨタ自動車北海道株式会社 総務部 人事室
人財育成G主幹 中川 佳希さん
標準作業を作り常に改善する
トヨタ自動車北海道では、AT(オートマティックトランスミッション)やCVT(無段変速機)など、自動車に欠かせない部品を製造しています。さまざまな種類の作業がある中で、一つの課では数名のグループ長がいます。このグループ長が中心となり標準作業を作って指示を出します。グループ長の下にいるリーダーがチームのメンバーに直接指示を出し進捗を確認しています。チームの人数は、リーダーが一人ひとりと直接コミュニケーションを取って作業を進められるよう10人以下で編成され、2〜3チームが一つのグループになっています。
最も大切にしていることは「メンバーの安全を守る」「品質を保つ」ことです。現場での作業は標準化され、作業手順を細かく分解した「要素作業票」と具体的な作業のやり方や手順を示した「作業要領書」(写真2)に書かれています。
これは失敗しない作業のやり方を落とし込んだもので、これら二つを基にリーダーがメンバーに伝え、できるようになるまで指導。更に、一度作ったら終わりではなく、問題点がないか常に確認しています。リーダーはメンバーから話をよく聞き、問題点があれば対策案を作成し、改善に努めています(図1)。
作業伝達には人間関係が必須
この標準作業と改善のサイクルを回していくために必要なのは、円滑なコミュニケーションです。そのために、トヨタでは良い人間関係に支えられた明るい職場づくりが不可欠と考えています。メンバーには正社員だけでなく期間社員や派遣社員もいるため、多様な価値観を持つ人とのコミュニケーションが求められます。
作業指示を出すリーダーやグループ長には、各課の係長にあたる工長がトレーナーとなって研修を行います。講義だけでなく体験型の研修で、より深く理解できるようにしています。
研修でも教えている六つの基本的なコミュニケーション技法があります。①承認、②傾聴、③共感、④合わせる、⑤質問、⑥提案・助言・指示です(図2)。部下を個人として尊重するために、まずこれらの技法に関して掘り下げて学びます。また、部下も感情や個性が一人ひとり違うということを踏まえ、部下を変えようとするのではなく、自分が接し方や働き方を変えるという観点も学んでいきます。
部下との会話で育む信頼関係
人間関係が悪くなると作業が滞り、安全や品質に悪影響を及ぼします。そのため、各グループやチームでは、集まってお互いを知り交流する時間を取っています。また、リーダーは作業の合間に一人ひとりと雑談を含め、会話をすることで、何か困ったことがあった時に話せる関係性を作っています。一人ひとりの特性を知って繰り返したり、教え方を変えたりすることで、標準作業を浸透させ改善もできます。
農業現場の作業でも安全と品質を守ることが不可欠と思いますので、トヨタの工場と通じる部分が多いと思います。実際に、道内のJAからコミュニケーションの研修を行ってほしいという依頼をもらっています。トヨタで実践している方法がお役に立てれば幸いです。
シートを活用し声掛けをして細やかにフォロー
第1ユニット製造部第12製造課
第3作業係
工長 森井 英之さん(写真右)
232G リーダー 川田 太さん(写真左)
作業で重要な部分はグループ長が伝え、リーダーはメンバーが理解しているかを確認します。個人の進捗を確認するためのチェックシートは数種類あります。新規入社者向けの「コミュニケーションシート」では、覚えた作業や困ったことを毎日書いてもらい、リーダーがそれに対するコメントを書くことでコミュニケーションを取っています。他にも安全に特化したレベルアップシート、作業の理解度を測るための作業訓練フォローシートで、リーダーと本人が確認しています。作業内容が変更になった場合は、新しい「要素作業票」と「作業要領書」に基づいて一人ひとりが覚えるまで教えることの繰り返しです。
入社当初は上司との挨拶や会話が苦手な人もいます。そういった人には上司の方から挨拶や声掛けをすることで、1カ月、2カ月と経過すると挨拶が返ってくるようになり、円滑に意思疎通でき、作業の進捗確認もスムーズになってきます。
ケガなく、不具合を出さずに作業するためには、メンバー個人の心身の健康を守ることが大切です。「傾聴」を大事に一人ひとりの思いをくみ取り、ケアすることを心掛けています。