農作業中の事故を防ぐ安全対策

キーワード:農作業事故

ほかの産業と比較してもとりわけ多い農作業中の事故。収穫の秋を迎えるにあたり、事故の現状と起こりやすい状況、防ぐための方法について北海道農作業安全運動推進本部の瀬野さんにお話をお聞きしました。

この記事は2020年10月1日に掲載された情報となります。


北海道農作業安全運動推進本部 事務局長 瀬野 俊彦さん

北海道農作業安全運動推進本部
事務局長 瀬野 俊彦さん

減らない農作業中の死亡事故

全国的に、農作業中の事故、とりわけ死亡事故が後を絶ちません。2019年度には北海道で、2297件の事故が起こり、そのうち19件が死亡事故でした。19件中17件が農業機械による事故で、トラクターやフォークリフトから転落する、機械の操作ミスや目的外使用により転倒して機械にひかれる、といったケースが見受けられます。

近年の北海道では、事故全体が約2200件、死亡事故が約20件で推移しています(図1)。10万人当たりの死亡事故件数は国内全体で全産業平均の約11倍とほかの産業と比較しても多く、事故が多いといわれる建設業と比較しても2.6倍です(図2)。

農作業事故件数の推移
図1.農作業事故件数の推移
10万人当たり死亡事故件数の推移
図2.10万人当たり死亡事故件数の推移
資料:死亡事故件数と人口から算出。
死亡事故件数は、農林水産省生産局、警察庁交通局、厚生労働省安全課調べ。 総人口及び労働者数は、農林水産省統計部「農業構造動態調査」の農業就業人口、総務省統計局調べ。

農作業事故が起こる要因

事故が多い要因として、特に春の作業期と秋の収穫期は、天候不順で作業が遅れるとその遅れを取り戻そうと作業が集中し労働時間が長くなること、これにより疲れや焦りで安全に注意が向かなくなることなどが挙げられます。また、機械に装着されている安全カバーを外す、フォークリフトの爪に人が乗るなど本来してはいけない方法で機械を使うことで起こるケースもあります。また、農業就業人口の2分の1以上を占める60歳以上の高齢者の事故の割合が上昇していますが、その要因は、加齢による身体機能や判断力の低下によるものと考えられます。

更に、ほかの産業との大きな違いは、農業の多くを占める家族経営が労働安全関連法令の適用外となっていることです。このため、安全確保は自己責任で行われますが、事故が発生しても報告の義務がなく、事故の情報が十分に把握されません。安全対策が不十分で安全の確保が徹底されていないのは、事故が減らない大きな要因となっています。

事故を未然に防ぐ行動を

これらの事故を防ぐためには、「基本動作の徹底」「先入観にとらわれない」「危険に気づいたら速やかに改善」が大切です。基本動作とは、❶機械は目的外使用をせず正しく使うこと、❷機械から降りて整備などをする時は必ずエンジンを止めること、❸補助者がいる場合は機械の発進や緊急停止の合図を決めておき安全を確認してから機械を動かすことなどです。先入観は、慣れから生まれます。「今までこうだったから大丈夫」ではなく、扱っている機械は凶器になりうること、危険が伴う作業であることを常に認識することが必要です。緊急事態に備えて、常に携帯電話などを身につけておくことも、自分の身を守ることにつながります。

収穫で忙しくなる秋は事故が増えます。日没が早まり暗くなってから作業をする場合は早めに照明を点灯すること、トラクターは雨や霜で滑らないようスピードを落として運転すること、衣類が機械に巻き込まれないよう袖口が詰まった服を着用するなどの点も注意しましょう。

また、事故の事例から同じような状況を回避することも、対策につながります。農作業安全情報センターでは、ウェブサイト上で農作業事故の概況、事故の原因や事故後の対策などの情報を公開しています(下記URL参照)。

公道走行時は運転免許に注意

事故防止のために守るべき法令の最重要項目が、運転免許です。2019年4月の公示により、農耕トラクターに作業機を装着して公道を走行できるようになりました。2019年に認められた直装タイプに加え、2020年1月にはけん引タイプも新たに認められましたが、道路交通法上の小型特殊自動車の規格以外の農耕トラクターで公道走行する場合は大型特殊免許が必要です。更に、車両総重量750kgを超えるトレーラーをけん引する場合はけん引免許が必要です(図3〜5)。該当する免許がないと、「無免許運転」になります。また、灯火器類の装備、制限標識の表示、全幅、運行速度などの条件がありますので、事故を防ぐためにもしっかり確認してください。

「公道走行」ができる作業機のタイプ(条件を満たした場合に限る)
図3.「公道走行」ができる作業機のタイプ(条件を満たした場合に限る)
トレーラーをけん引した農耕トラクターが「公道走行」に必要な運転免許
図4 .トレーラーをけん引した農耕トラクターが「公道走行」に必要な運転免許
「公道走行」に大型特殊免許が必要な場合
図5 .「公道走行」に大型特殊免許が必要な場合 全長4.7m、全幅1.7m、全高2.0m( 作業機を含む。全高は、安全キャブ・フレーム等により2.0mを超える場合は2.8m)、最高速度15 ㎞/hのいずれか一つでも超える場合には大型特殊免許が必要です。

リスク低減・現場改善のヒントとして農作業安全情報センターホームページ内の「事故事例検索」をご活用ください。下記のアドレスを読み取るとアクセスできます。 http://www.naro.affrc.go.jp/org/brain/anzenweb/chousadb/chousadb.html