耕起

傾斜畑の土壌流亡対策

この記事は2020年10月1日に掲載された情報となります。

道総研 中央農業試験場 農業環境部 環境保全グループ 巽 和也

道総研 中央農業試験場 農業環境部 環境保全グループ 巽 和也

Profile:北見工業大学大学院修了。北見農試契約職員を経て、2014年12月から研究職員(現職)。土壌流亡対策や、衛星による画像などを用いた農地の排水性診断に関する研究を担当。

POINT
●営農でできる二つの対策により土壌流亡被害を軽減できます。

傾斜畑では降雨時や融雪時に畑地表面を下方へ向かって流れる水(表面流去水)が発生し、豪雨や急激な雪解けでは土壌も緒に圃場の外へ流出する「土壌流亡」が発生します。近年、豪雨の発生が多く、肥沃(ひよく)な土壌資源を保全するための対策がますます重要となっています。

そこで、傾斜畑での土壌流亡を軽減するため、営農でできる①土層改良と②後作緑肥の部分不耕起を組み合わせた土壌流亡対策について現地実証しました(図1)。

営農でできる土壌流亡対策技術
図1. 営農でできる土壌流亡対策技術

❶土層改良による土壌流亡対策

土層改良により表面流去水を地下に浸透させることで土壌流亡の被害軽減を図ることができます。現地試験では、トラクターに装着できる有材補助暗きょ機「カットソイラー」を用いました。カットソイラーは、前進しながら土中50cm付近までの任意の深さで締め固まった土層を破壊するとともに土塊を切り上げ、麦稈や刈り株などの作物残渣を落とし込む機械です(アグリポート26号参照)。

秋播き小麦収穫後の8月に施工すると(写真1)、残渣埋設部の隙間が水みちとして機能することで水の通りが良くなります。これにより、降雨時における暗きょの排水量は土層改良前と比べて、約3倍に増加しました。また、雪解け後の畑の様子をみると、無処理区では侵食溝の発生が多いのに対して、土層改良区では侵食が抑えられ(写真2)、土壌流亡量は2〜3割減少しました。なお、土層改良には、サブソイラなどの心土破砕効果を有する機械も有効です。

カットソイラー施工の様子(左・8月中旬)と施工部の土壌断面(右・白線で囲った部分が作物残渣の埋設部)
写真1. カットソイラー施工の様子(左・8月中旬)と施工部の土壌断面(右・白線で囲った部分が作物残渣の埋設部)
土層改良区(左)と無処理区(右)の雪解け水による侵食溝の様子(4月)
写真2. 土層改良区(左)と無処理区(右)の雪解け水による侵食溝の様子(4月)

ただし、弾丸暗きょやカットドレーンなど土中に空洞を形成する作業機を施工する場合は注意が必要です。傾斜方向に施工すると地下で土壌を侵食する恐れがあるため、等高線方向に施工し、施工長を100m未満と短くします。

❷後作緑肥の部分不耕起による土壌流亡対策

土壌流亡対策には、表面流去水の勢いを抑える緑肥帯を設置することも効果的です。具体的には、秋播き小麦収穫後に栽培した後作緑肥(えん麦)をすき込む際に、圃場斜面の部を秋にすき込まず、春まで不耕起にする箇所(部分不耕起)を設置します(写真3)。この不耕起箇所が表面流去水の勢いを抑えることで侵食溝の発生を抑制するとともに流下する土壌を捕捉します。これにより、春先の土壌流亡量が約2割減少しました。また、土層改良と後作緑肥の部分不耕起の併用により抑制効果が高まり(写真4)、土壌流亡量は3〜5割減少しました。

後作緑肥の部分不耕起の様子(10月)
写真3. 後作緑肥の部分不耕起の様子(10月)
併用区(左)と無処理区(右)の雪解け水による侵食溝の様子(4月)
写真4. 併用区(左)と無処理区(右)の雪解け水による侵食溝の様子(4月)

緑肥栽培は植物被覆による傾斜畑での土壌流亡抑制のほか、土中への緑肥すき込みを継続することで有機物補給となり、団粒構造の形成や地力向上につながります。なお、翌年春の全面すき込み後、大豆、馬鈴しょ、てん菜で、部分不耕起区の初期生育を調査しましたが、悪影響は認められませんでした。

これら土壌流亡対策技術は、大きな工事などを行うわけでははないため、追加コストなしで日々の営農作業の工夫により取り組めます。土壌資源の保全のために広く普及することを望みます。