この記事は2024年12月2日に掲載された情報となります。
北海道農政部 食品政策課
みどりの食料システム戦略室
主査 三宅 真人
温室効果ガスの削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証するJ−クレジット制度。実際に農業でどのように取り組まれているのか、北海道農政部の三宅主査に基礎から教えてもらいました。
Q3.生産者がJ−クレジットを「つくる」ためにはどうすればいいの?
A.まずはプログラム型で取り組みを考えましょう
J−クレジットには「通常型」と「プログラム型」という二つのプロジェクト登録形態があり(図3)、生産者はどちらかを選択し、登録します。
生産者・事業所単位で取り組み、認証してもらう「通常型」は申請が難しく、審査費用や登録費用も高額。取り組みの認証を受けるために大学や大企業などのサポートが必要なケースもあります。
創出されたクレジットの管理や、販売先企業への営業といった業務負担も発生します。専門知識やネットワーク、資金や時間が求められるので、全てを生産者が単独で行うのは負担が大きいと考えられます。
一方、「プログラム型」は取りまとめ事業者が管理や申請手続きを生産者に代わり実施。各生産者の削減活動を取りまとめ、㆒括でクレジットを創出します。
手数料がかかるものの、小規模な削減活動からもクレジットを創出でき、登録や審査にかかるコストや時間を削減。生産者は実施した取り組みの情報やデータを、取りまとめ事業者にWeb等を通じて提出するだけで済みます。
また、多くの生産者が参加してクレジットを大きくすることで、販路を確保できるなど、生産者にとっては取り組みやすいプロジェクト登録形態といえるでしょう。
まず計画書の作成、妥当性の確認、申請を経てプロジェクト登録を行います。
登録後、 J−クレジット制度で規定されている「方法論」に基づいた取り組みを実施し、各種データを収集。収集データから規定に合わせた申請書類と証拠書類を作成して、制度事務局に提出しなければなりません。
その後、第三者機関のチェックを経て、有識者で構成される認証委員会が認証するとクレジットを創出できます。
Q4.J−クレジットの方法論って何?どんなものがあるの?
A.規定された方法論で取り組むことでクレジットが創出できます
温室効果ガス削減・吸収になる取り組みならば、何でもクレジットを創出できるというわけではありません。
J−クレジット制度では「温室効果ガス排出削減・吸収量の増加につながる」と認められている技術ごとに、適用範囲や排出削減・吸収量のモニタリング方法などを「方法論」として規定。クレジット創出のためには「方法論」に基づいた温室効果ガスの排出量削減・吸収量増に取り組み、規定に合った申請書類と証拠書類を作成して制度事務局に提出します。
制度全体で70の「方法論」が承認されており、農業分野では六つあります(表1)。その中で、北海道では現在三つの「方法論」によるクレジット創出が実践されています(2023年11月現在)。
2023年に追加された「水稲栽培における中干し期間の延長」のように、取り組みやすい新たな「方法論」が今後、追加されることが期待されます。
道内で創出されたJ−クレジットの例
水稲栽培における中干し期間の延長
水稲の中干しには土中にある嫌気性菌(酸素の無い環境で活動する菌)のメタン生成菌の働きを抑え、メタンガス発生を削減する働きがあります。中干し期間を従来より延長し、温室効果ガスの削減量を増やすことでクレジットを創出します。
J−クレジットに認証される条件
●直近2カ年以上の実施日数の平均より7日以上中干しを延長。
●中干しを規定通り延長したことがわかる証拠写真や生産管理記録などを提出。
J−クレジット創出量
圃場の排水性、稲わらのすき込みや堆肥施用の有無によって変化します。
家畜排せつ物管理方法の変更
スラリーとして貯留している家畜糞尿を固液分離器により、固体と液体に分離。分離された固体分を数日から数週間強制発酵(空気と触れ合わせる好気性発酵)させることで、スラリーとして貯留した場合に比べて、温室効果ガスの発生量を削減し、クレジットを創出します。
J−クレジットに認証される条件
●家畜の糞尿を固液分離機で分離し、強制発酵させます。
●管理方法の変更前後の生産管理記録や家畜の出荷記録、家畜排せつ物管理方法が分かる資料などを提出。
J−クレジット創出量
管理方法の変更前後で温室効果ガス削減量を計算。
バイオ炭の農地施用
木材やもみ殻、家畜糞尿などを酸素が少ない状態で350℃超で加熱して作られるバイオ炭。木材やもみ殻が分解されて発生する二酸化炭素を炭にすることでため込むことができます。このバイオ炭を農地に散布・施用することで土の中に二酸化炭素を貯留してクレジットを創出します。
J−クレジットに認証される条件
●バイオ炭の製造過程や原料の証明を提出。
●バイオ炭の散布量、散布する土壌に関する資料を提出。
J−クレジット創出量
バイオ炭の原料や製造・運搬・散布過程で使用した燃料やエネルギーによって変化。