生産コスト高に対応するには、現状を正確に把握することが大切です。中央農試で農業経営のシステム化などを研究する山田洋文さんに、生産コストの考え方を教えてもらいました。
この記事は2022年10月1日に掲載された情報となります。
道総研 中央農業試験場
農業システム部 農業システムグループ 主査(経営) 山田 洋文さん
コスト高の影響は、農業形態によって違いがある
肥料や飼料の高騰によって農業経営にどのような影響が出るのでしょうか。農業の経営形態や作付けしている品目によって差がつきそうです。肥料や飼料の値上がりが、自分の農業経営にどのくらいの影響を及ぼすのか、しっかりと把握する必要があるでしょう。
生産コストについて考える際に気を付けなければならないのは、経営総体でいくらかかっているかと、作付けしている品目ごとにいくらかかっているかをきっちり区別して考えることです。
最初に、肥料費が経営総体でいくらかかっているかについて検討してみましょう。北海道農政事務所の「北海道農林水産統計年報」では、水田作か畑作かなど、営農類型別に調査した北海道内の調査結果を公表しているので参考になります。
2020年の統計を見ると、個人経営の水田作経営※の場合、農業経営費(1年間の農業経営に要した一切の経費)は1267万円。うち肥料費が137万円、農薬衛生費が103万円と、それぞれ1割程度かかっていることがわかります(図1)。
一方、畑作の場合、農業経営費は3716万円で、うち肥料費が522万円(図2)。金額を比べると、水田作よりも畑作で、肥料高騰の影響が大きいと想定されます。
更に酪農でも影響が大きそうです。酪農経営の場合では、農業経営費7899万円のうち飼料費が3025万円(図3)。飼料費が大きな割合を占めているので、購入飼料の割合が多い生産者がより影響を受けると考えられるでしょう。
つまり、肥料や飼料高騰の影響の度合いは一様でなく、どのような農業の形態かによってもかなりの差が出ると見込まれます。しっかりと収益を確保するためには、家計と同じように経費の内訳を把握したうえで、比率の大きいものから低減に取り組む必要があります。
影響の大きさはそれぞれ。これから肥料費が1.5倍になった場合、2倍になった場合などを想定して、経営にどのような影響があるのか把握する必要があるでしょう。
※稲、麦類、雑穀、いも類、豆類、工芸農作物の販売収入のうち、水田で作付けした農業生産物の販売収入が、他の営農類型の農業生産物販売収入と比べて最も多い経営。
営農類型によって違う、コスト高の影響度(個人経営体)
グラフは農林水産省の調査による、北海道の個人経営体の調査結果です。
作物ごとに生産費を割り出して比較検討を
反収9俵の米をつくるのに肥料費が7,000円の人もいれば、1万円の人もいます。作物ごとに比較すると、課題が見えてきます。
生産コストは作物ごとにチェックすべし!
肥料高騰の影響は、経営の形態だけではなく、作付けしている品目によっても差が生じます。
北海道内における10a当たりの生産費を作物別に公表している、北海道農政事務所の農産物生産費統計では、米の費用合計約10万円に対し、大豆は約6万2000円(図4)。大豆が米の6割程度の費用でつくれることが分かります。
また、費用合計だけでなく肥料費の割合にも注目してほしいです。てん菜の生産費では、肥料費の割合は25%で、10a当たりの肥料費を金額にすると約2万4000円。大豆の肥料費約8000円と比較すると、約1万6000円もの差があります。
ということは、肥料の高騰は肥料の割合の高い作物を多くつくっている生産者に、より大きな影響をもたらすと考えられるわけです。
作物ごとの生産費の構成割合(北海道)
円グラフの中央の数字は10a当たりにかかる生産費です。各作物ごとに費用合計が異なるだけでなく、肥料費や農薬費などの割合も作物ごとに違うことが分かります。
10a当たり費用は栽培履歴から算出が可能
生産費に占める肥料費や農薬費などを作物ごとに把握すれば、高騰による影響を明らかにできます。最も簡単なのは、栽培履歴(資材使用量)を参照する方法です。
栽培履歴は10a当たりの単位で記録されているので、使った分の肥料や農薬の金額を計算すれば、統計の平均値と比較できます。
収量や品質は道内の統計や地域の平均と同程度で、肥料費や農薬費が高い場合には、コストを更に削減できないか検討が必要でしょう。
反対に、肥料費や農薬費が統計よりも低いのに、収量が統計や地域の平均より高い場合は、安心してこれまで通りの栽培方法を継続しても良さそうです。
作付け品目の構成は各戸で違うので、肥料費の金額だけを比較するのでは意味がありません。作物ごとに経費をいくら使っているかまで調べて、一つひとつ見直すことが求められます。
生産コストが明らかになると、収穫した作物で得なければならない売り上げも明らかになります。販売価格の引き上げが難しい状況においては、より一層の生産性向上を目指していく必要があるといえるでしょう。