この記事は2018年12月1日に掲載された情報となります。
営農計画はなぜ必要なのか。計画書を日々の経営にフル活用するにはどうしたらいいのか。営農計画に関するポイントを、中央農業試験場で生産システムの研究に取り組む白井康裕さんに教えてもらいました。
中央農業試験場 生産研究部
生産システムグループ
主査・博士 白井 康裕さん
01まずは基本からステップアップ
家族経営の生産者の場合、生産・購買・営業・経理など一般の会社組織ならば役割分担している業務を一人で担わなければなりません。こうした幅広い仕事を滞りなくこなすため、綿密な「営農計画」が重要になります。
しかし、急に緻密な営農計画を立てるのはいろいろな業務をこなす生産者にとっては難しいこともあります。段階的にステップアップすることで着実に経営感覚を身につけましょう(図1)。
02 クミカンの経営データは「図」で理解する
経営計画を考える時、ただ数字が並んでいても、なにがなにやら分かりませんが、「図」にするとお金の状況を感覚的に捉えることができます(図2)。
■費用1:肥料費・種苗費・農薬費・飼料費・養畜費・素畜費・生産資材費
■費用2:農業共済掛金・賃料料金・修理費・水道光熱費・営農車両費・租税公課・諸負担金・その他営業費
■労賃利子:労賃・支払利息
左から順に
❶稼いだお金
❷(その年の生産に)使ったお金と残るお金
❸使えるお金(借入金を返した分と使える分)
❹(家計や資金の運用に)使ったお金
❺残ったお金
図2は、収支がプラスの優良な経営といえます。
03 計画は収入を少なめに経費を多めに計上
農業にはどうしても豊凶変動があります。過去5年の実績のうち最も穫れた年と最も穫れなかった年を外して、なか3年の平均で計画をつくるようにしましょう。
余力があれば、豊作の年、中庸な年、不作の年の3パターンで考え「豊作だった場合はこれに投資しよう」などと、あらかじめ考えておくのもいいでしょう。反対に経費は多めに見積もって計上するのがポイントです(図3)。
04 営農計画を経営の道しるべに
営農計画は「クミカンを利用する信用保証」のためだけに行うものではありません。企業が事業計画に沿って経営を行うように、計画を目標実現への道しるべとして活用しましょう。
JAにはクミカンだけでなく、栽培記録など、さまざまなデータがあります。地域の優良な経営内容を経営のお手本として提示してもらい、自らの経営の改善点を発見することも可能です。
05 計画の前に自分なりの目標を持つ
本来の営農計画は、目標を達成するためにつくるものです。最初は小さな目標からスタートしても構いません。トマトなら1株から何円売り上げを確保しようとか、今年は小麦を何俵とろうとか、実現できそうな目標を立て、そのために何をすべきかを意識して計画をつくりましょう。
06 計画と実績にズレが生じたら原因の分析を
クミカンを利用している方には、クミカン報告書が毎月届いているはず。年末になって収支を確認するのではなく、クミカン報告書で、常にチェックすることが大切です。
計画と実績にズレがあったり、前年との比較で大きな差が出た場合は、必ず原因があります。今年の震災のように明らかなものは別として、原因を特定しましょう。このとき、自分に都合が良い解釈をしないよう注意が必要です。
07 「失敗しない経営」ではなく「失敗から学ぶ経営」を
失敗の原因が明らかになった場合「やむを得ないことだったのか」「何かほかの手段があったのか」具体的に考えることが大切です。
例えば、突然、機械が壊れて修理費がかさんだのはやむを得ないとしても、故障が多ければ原因を考えなくてはなりません。大切なのは「失敗して落ち込む」ではなく「失敗から学び、次の計画に反映させること」です。
08 優秀な農業経営者とは
優れた経営をしているかどうかは、生産者に「あなたのところの収量や品質は、この地域で何番目くらいですか?」と質問すればすぐに分かるといわれます。これは、成績の優秀な経営者ほど、積極的にさまざまな人たちと交流して、自分の仕事がほかの人と比べてどの程度なのか、客観的に把握しているからです。
反対に経営改善の余地がある生産者はこれまでのやり方を重視するあまり、問題点を見過ごしてしまう傾向があります。
09 改善は優先順位をつけて実行
経営の改善点は一つではありません。そのため、どこから手をつけていけばいいのか分からないケースも多いはずです。その場合は、まずどの作物の、どの過程に問題があるのか、酪農なら課題は子牛なのか育成なのか成牛なのかを明らかにして、優先順位をつけて改善を図ります。
あれもこれもいっぺんに取り組むのはムリなので、着手しやすく改善の効果が大きいところから始めるのがベストです。
10 優良経営の秘訣は、外部の人の意見に耳を傾けること
「農家の生産コストは遺伝する」といわれます。親の経営手法をそのまま踏襲していることが多いからです。これでは良い部分だけでなく、悪い部分も引き継いでしまうことになります。そうならずに、より良い経営を行うためには外部の人の意見を参考にできるかどうかがポイントです。
優秀な経営成果を出している農業者を対象にした調査では「JA職員から助言されたことを守ってきた」という人が多数いました。ここからも外部の人の意見を柔軟に吸収し、経営に取り入れていくことが優良経営につながるのは明らかです。
経営というプライベートなことは相談しづらいかもしれませんが、生産者のまわりにはJAの職員はもちろん、普及指導員、我々のような試験場の研究者、資材や農機メーカーの営業マン、獣医師や授精師など、大勢のプロフェッショナルがいます。「おかしいな」と思ったら一人で悩まず、早めに相談し、自身の経営改善に生かしましょう。