この記事は2018年8月1日に掲載された情報となります。
農作業中の事故は、どのような場面で発生しているのでしょう。安全対策の啓発に取り組む「北海道農作業安全運動推進本部」の事務局長、瀬野俊彦さんに聞きました。
北海道農作業安全運動推進本部
事務局長 瀬野 俊彦さん
農業の事故の多さは想像以上
「農業の死亡事故件数は、危険といわれる建設業の2.7倍です。農業が他の産業を大幅に上回っていることは、あまり知られていません」
こう話し始めたのは、北海道農作業安全運動推進本部の瀬野俊彦さん。過去10年間の死亡事故をまとめたグラフ(図1)では、建設業や交通事故が減少傾向なのに対し、農業は増加傾向にあることがわかります。
10万人当たりの死亡事故件数の推移を全国ベースで示したグラフです。農業は増加傾向で死亡事故のリスクが最も高くなっています。北海道では過去10年間の死亡事故172件のうち約7割が60歳以上。被害者は高齢者に集中しています。
また、北海道に限ると死亡者は172名。農業機械による事故が74%で、なかでもトラクターの事故(転落横転、機械からの落下、交通事故など)が全体の38%を占めています。
一方、負傷事故は毎年2千件以上発生しています。生産者数が減少するなかでも、事故件数はそれほど減っていません。分類別で一番多いのは家畜による事故で、大半が牛との接触によるもの(図2)。慣れた作業でも、牛は予想外の動きをする可能性があると認識しましょう。
負傷事故を含めた全道の事故件数を分類別にみてみると、多いのは家畜と農業機械の事故。なかでも圧倒的に多いのは、牛との接触。蹴られる、踏まれる、挟まれる、突かれるなど、事故の6割は搾乳時と移動時に発生しているのが特徴です。
まずはリスクの認識から
事故が多いのに、防止対策が十分でない理由の一つが労働災害に適用される「労働安全衛生法」が、農作業事故には適用されないこと。
「他の産業では危険な作業の洗い出しが行われ、安全のための取り組みが徹底されますが、家族経営が主体の農業ではどこにリスクがあるか十分に把握されていない」と瀬野さんは指摘します。
同本部では道や市町村、JAと連携して、安全の啓発活動や注意喚起を展開。「MMH(マナー・マーク・保険)運動」の名で、トラクターの運転マナーの遵守や低速車マークなどの装着、労災保険や傷害共済への加入を呼びかけていますが、なかなか事故は減りません。
事故の原因は、一瞬の不注意や慣れによる油断がほとんど。注油や清掃、作業機を操作する時はトラクターのエンジンを停止する、動かす時は周囲に合図をする、緊急事態に備えて携帯電話を常に身に着けておくなどの基本を徹底することが大切です。
瀬野さんは「農業には危険がつきまとうことを認識し、対策をとることで経営を安定させてほしい」と訴えています。