【女性後継者】女性後継者が抱える悩み

農業が好きだからこそ悩む女性後継者の今と未来

キーワード:後継者問題農業女子

農業が好きだからこそ悩 む女性後継者の今と未来

 

この記事は2017年10月1日に掲載された情報となります。

 

農家の跡取りを目指す農業女子は、どのような悩みや迷いを抱えているのか。高校卒業後、両親の跡を継ごうと就農した富良野市の前多里美さん(25歳)と、非農家だった匠さん(34歳)のご夫婦に話を聞きました。

 

前多 里美さん

前多 里美さん

「仲間がいれば、孤独感を感じることもないし、もうちょっと頑張ろうと思える」

 

前多 匠さん

前多 匠さん

「僕みたいに農業を仕事にしたいという人も少ないながらも、いると思うんです」

 

農業特別専攻科は男子ばかり!

「農業を継ごうと思ったのは、進路を決めるぎりぎり、高校3年のとき。両親が夜業に行く背中を見て、私が手伝ったら楽になるのかな…と思って。『継ごうかな』と言ったら、父も母もすごく喜んでくれました」

前多家は、玉ねぎ、てん菜、秋まき小麦などをつくる家族経営の農家。里美さんは三姉妹の真ん中ですが、姉も妹も家を離れ、里美さんが就農しました。地元の高校の「農業特別専攻科」に進学し、農業経営を学びながら、家の農作業を手伝い始めたのが7年前のことです。

「専攻科の同級生は16人で、私以外はみんな男子。輪に入れなくて、毎日泣いてばかりいました」

そんなときに声を掛けてくれたのが「ふら農嬢(ふらのっこ)」という女性農業後継者のグループ。相談できる仲間ができて、心強く感じたそうです。

 

農業志望の男性と出会って結婚

「ふら農嬢」と同様、全道の女性後継者が集まって2013年に設立されたのが、農業女子ネットワーク「はらぺ娘(はらぺこ)」です。札幌で年に一回の総会が行われた際、農業に興味がある男性との交流会があり、そこで里美さんと出会ったのが、ご主人の匠さんでした。

匠さんは奈良県の出身。子どもの頃から農業に興味があり、北海道大学農学部に進学。大学院を経て種苗会社に就職し、家畜のエサとなるデントコーンの育種に取り組みましたが、「人の食べるものをつくりたい」という気持ちが次第に強くなったそうです。

新規就農を目指して北海道農業担い手育成センターに相談。担当者に「女性農業後継者との交流会があるから参加してみない?」と言われ、そこで里美さんと知り合いました。その後、滝川市の「花・野菜技術センター」で研修をしながら、里美さんと交際。休日には里美さんの家の農作業を手伝うようになり、2015年に結婚しました。

圃場にて前多夫妻。
圃場にて前多夫妻。

 

「『ふら農嬢』の先輩方には『ちゃんとしてる人なの?大丈夫かい?』と心配されましたけど、実際に会ってもらったら『優しそうな人だね』と安心してくれました」と里美さん。

いま里美さんは就農7年目、匠さんは3年目。以前は里美さんとお母さんが二人がかりでやっていた1トンコンテナの組み立てや、トラクターでの早朝の畑起こしなど、匠さんも担当するので、仕事がはかどるようになったそうです。

 

結婚と跡継ぎの両立は困難?

前多さん夫妻はとても幸運な巡り会いですが、一般的に農家の女性後継者との交際や結婚は、男性にとってハードルが高いもの。里美さんも将来ついては「家に来てくれるダンナさんがいればベストだけど、結婚できなくて一人で農業するのは難しいと思うので、それなら、来てほしいというところがあれば嫁に行ってもいいかな、と思っていた」そうです。

同じ後継者なのに、女性の場合は男性にくらべ結婚と跡継ぎを両立しづらい面があるのは確かでしょう。でも、婿養子として農家になった匠さんはこう話します。

「農家の男性と結婚して女性が家に入るのと、農家の女性と結婚して男性が家に入るのと、別段、差はないと思うんです。ただ前者がこれまで一般的だったから、抵抗のある男の人もいるかもしれない。それに、自分の仕事を辞めて農業に就くのが難しい人もいるかもしれない。でも、僕みたいに農業を仕事にしたいという人も、少ないながらもいると思うんです」

 

男女共同参画の農業へ

いま農家の男性と都市部に住む女性に出会いの場を提供する婚活があちこちで行われていますが、もっとさまざまな組み合わせのスタイルが考えられるのではないでしょうか。女性の後継者が将来的に一人で農家を継ぐのは難しいと思い込む必要もないかもしれません。

「農業はまだまだ男社会だと思うんです。そもそも青年部も、入っていいことになっているとはいえ女性は入りづらい。男女の差がなく、後継者が集まって情報交換できるような組織になれば、出会いも広がるし、経営のヒントも得られるのでは…」と匠さん。

里美さんも「女性の後継者がもっと増えてほしい。仲間がいれば、孤独感を感じることもないし、もうちょっと頑張ろうと思えるから」と強調します。

農業を継いだ人、農業や農村の暮らしに興味のある人、男女関係なく知り合う機会をつくれば、前多夫妻のような幸せな出会いが、もっと増えるかもしれません。