この記事は2017年8月1日に掲載された情報となります。
岩見沢市では、市内13カ所に気象観測装置を配置し、各種農作業に最適な時期を予測した情報を「農業気象サービス」として2013年から有償提供しています。どのような経緯で始まり、どう活用されているのか、取材しました。
岩見沢市 企画財政部
企業立地情報化推進室
室長 黄瀬 信之さん
岩見沢市は、基礎自治体として全国で最初に自前の光ファイバー網を整備した地域です。教育や医療分野で使っているICT基盤を経済分野にも活用できないか、という発想が今回の農業気象サービスのスタートでした。
岩見沢市企画財政部企業立地情報化推進室の黄瀬信之室長は、こう説明します。
「生産者との意見交換で農業の効率化には気象情報が不可欠だと聞きました。なかでもほしいのは風向・風力の予測。黄砂がいつどれくらいの量で飛散するかが分かれば、薬を散く時期をコントロールできる、というんです」。
一方で、岩見沢は豪雪地域でもあり、冬場は朝の通勤・通学などに支障が生じることもしばしばです。夏は農業、冬は市民の生活の安全確保という観点で抱き合わせ、気象情報を提供しようというアイデアが生まれました。市の社会基盤としての整備なので、ランニングコストは行政が持ち、一般市民には無料で提供。農業用の解析コストは受益者に負担してもらう仕組みとしました。
50mメッシュで予測情報を提供
まず、市内13カ所にウエザーバケットという観測装置を配置。降水量、気温、湿度、風向、風速、日射量などのデータを取得して、ホームページで随時公開。誰もがリアルタイムの情報にアクセスできるようにしました。
また、そうして集めた数値をデータセンターに蓄積し、ビッグデータを解析することで、農作業に役立つ予測メニューを有料会員向けに提供しています。
最大の特徴は、50m四方に区切った区画(メッシュ)単位で予測している点。大ざっぱなエリアごとではなく、それぞれの圃場ごとに気象情報を活用してほしいという思いからです。
予測値は、グーグルマップ上に50mメッシュで色づけして表示。病害虫などは「注意」「要観察」「安全」などが一目で分かります。あらかじめ自分の圃場を登録しておくことも可能です。
現在、利用している生産者はおよそ100戸。まだ少ない規模ですが、利用者からはデータをもとに玉ねぎの防除の時期などを調整し、資材コストを削減できた事例が報告されています。
気象情報をベースにスマート農業へ
この農業気象サービスを提供しているのは、有限会社アグリウエザーなど3社からなる農業気象コンソーシアム。窓口はJA が引き受けています。
利用料は年額4,320円。JAいわみざわの組合員なら1,000円の助成があります。今後、さらに利用する人が増え、データが蓄積していけば、予測メニューも増え、かつ精度も高まっていくでしょう。
「岩見沢は、水稲の乾田直播と、麦・大豆などの畑作物を組み合わせた空知型輪作を推進していますが、連作が減るぶん経験を積みづらくなる側面もあります。経験の浅い農家さんをサポートできるようなシステムを構築していけたらいいですよね」
黄瀬さんは今後、スマート農業が普及していくためには、「農業気象サービス」がベースになると考えています。
今後、考えられる展開とは?
岩見沢市の取り組みは、もともと市内全域に光ファイバー網が整備されていたから実現したといえます。いちから取り組むとなると、通信事業者の既存ネットワークを利用しなければならず、低廉な利用料でまかなうことは難しいかもしれません。
黄瀬さんは「新篠津や当別、長沼など近隣の町村なら、同じ観測装置を使うことで、岩見沢市の気象観測装置で得られるデータを共有することも可能」だと話します。
実用化されて4年目、タイやフィリピンなど海外はもちろん、全国の土地改良区などからも視察が相次いでいる農業気象サービス。活用範囲はこれから想像を超えて広がるかもしれません。
●パソコン・スマートフォンでのデータ活用
●岩見沢市農業気象サービス
メニュー
●乾田直播のための地表面温度と土壌水分量情報
●乾田直播生育期予測情報
●小麦の開花始め、成熟期予測
●小麦の穂発芽(低アミロ耐性)予測
●小麦の収量予測
●水稲の葉いもち病発生予測
●水稲のカメムシ成虫最盛期予測
●水稲の幼穂形成期・出穂期・成熟期予測
●水稲の収量予測
●玉ねぎの病害予測(べと病と灰色かび病)
●玉ねぎの軟腐病予測
●融雪促進適期予測情報