実際の生産現場でドローンはどのように使われているのでしょう。今春、完全自動航行のドローンを個人で導入し、ドローンによる防除に取り組み始めた妹背牛町の熊谷勝さんを訪ねました。
この記事は2020年10月1日に掲載された情報となります。
妹背牛町
熊谷 勝さん(左)、俊さん(右)
熊谷さんの経営面積は33ha。奥さんと息子さんの3人で水稲(移植・直播)、黒大豆、秋播き小麦を作付けしています。ドローンの操作や申請などの手続きは主に俊さんの担当です。
“高額だけど、その価値はある”
自動航行は思った以上に簡単
今春、ホクサン株式会社からXAG社のドローンを導入した熊谷勝さん。プロポ(コントローラー)で操縦する機種ではなく、完全自動航行の高性能モデルP30の発売を待って購入しました。
事前に息子さんと3日間の教習を受講。初日に仕組みや使い方を座学で学び、2日目からは教習機で実技訓練を重ねました。
6月に機体が納品されると、最初に取り組んだのは圃場の測量。RTKアンテナを圃場の四隅に持っていき一枚ずつ位置情報を登録しました。その後、国土交通省への申請を行い承認を得てから、まず水稲除草剤の散布、次に一斉防除を7月と8月に各1回、大豆のマメシンクイガの防除を2回。友人の大豆畑も含め合計で60ha分の散布を行いました。
「最初は少し不安だったけど、思った以上に簡単だったね。薬液を作ったりする段取りで30分、ドローンで実際にまくのは1ha当たり10分くらいという感じ。重宝しています」
バッテリー交換や薬液の充填もスムーズ
バッテリーをこまめに交換するのは大変そうですが、実際どうなのでしょう?
「搭載する薬液量が多いほどバッテリーを食うんですよ。なので16ℓのタンクに12ℓ入れるようにしています。12ℓでまける面積が1.5haくらい。バッテリーが切れる前に戻ってくるので、交換してやると中断したところから再開します」
バッテリーも薬液タンクもカートリッジ式だから交換はスムーズ。薬液の注入も自動充填機があるので手間がかかりません。
「散布装置がノズルではなくアトマイザー式なので、回転数を変えることで液滴の大きさを調整できるのもこのドローンのいいところ。圃場の中をまいたあと最後に外周を一周まわって散布できるのも気に入ってます」
ドローンによる防除を続けていくうちに、バッテリー交換への往復距離を短縮するためドローンの離着陸地点を途中で移動することなど、上手な使い方も徐々に分かってきたそうです。
30ha以上なら個人所有も視野に
昨年までは防除を無人ヘリに委託して年間70万円ほどのコストをかけていた熊谷さん。「風のない条件のいい時に自分で飛ばせるのなら、ドローンを自分で買っても損はないんじゃないか」と考えました。そして実際に何度か使ってみて「自動航行の最新機種はドローンにしては高額だけど、その価値はある」と感じています。
ドローンの利点は水稲乗用防除機(ビークル)より安価で作業時間も速いこと。「水稲の防除は全てドローンに切り換えることも可能。安易な投資は控えるべきだけど、面積が30ha以上の人なら個人で買ってもいいんじゃないか」と熊谷さんは話します。
今後の希望は登録農薬の種類が増えること。「今は限られたものしかないけど、畑でまく薬剤が増えれば、もっと幅広く使える」そう。ゆくゆくは追肥や種まきにも活用できれば、と期待しています。
「センシングのドローンと連携すれば、圃場をいちいち測量しなくてもよくなる。窒素の足りないところを見つけてピンポイントで追肥ができるようになったらいいね」
熊谷さんの導入をきっかけにJAでドローンの青空教室が開催されたこともあり、ホクサンには問い合わせが増えているそうです。