この記事は2017年4月1日に掲載された情報となります。
農業経営にとって、どんな作物を選びどんな経営をしていくかはとても重要です。その際のポイントについて、渡邉和義さん(前JA 北海道中央会 営農指導支援センター 営農指導課 専門指導員)にお話を伺いました。
渡邉 和義さん
Profile:昭和62 年より専門技術員として上川、中央農試、道農政部に勤務し、平成15 年道立十勝農試技術普及部長、平成17 年道農政部首席専門技術員を経て、平成20 年より29 年3 月まで道中央会営農指導課専門指導員として、JA職員や生産者の営農指導関連の指導や助言などに取り組む。近著に『営農指導論』平成28 年全中、『農業経営の診断と分析』『JA の営農指導』北農中他。北海道美幌町出身。
Q1.所得と所得率とは?
農業所得とは、個別経営で得られる利益のことです。粗収益から経営にかかる費用を引いたもので、一般的にはほとんど自家労働報酬が占めます。
所得額は、稲作、畑作、酪農などの経営タイプや作付けの内容で変わり(図1)、機械や施設をどれだけ持っているかでも変わります。
近年は、機械、施設の能力向上、大型化で購入価格も高くなり減価償却費などが増え、所得が圧迫されている経営体が見られます。新たな機械、施設の導入には注意が必要です。
所得率は、粗収益からいくら所得が残るかという割合です。一般に手作業が多い野菜作では高く、機械化、施設化が進んでいる畑作、酪農ではその分、減価償却費がかさみ低くなります。
Q2.作物ごとの所得の特徴は?
作物ごとの所得は、面積当たりの生産量や品質、販売単価と費用の程度で違います。また、作物生産や家畜の飼養にどれだけ労働(自家)がかかっているかで変化します。同時に、機械化や作業を外部に委託する割合でも違ってきます。作業を外部に委託することは、自らの所得(労働報酬)を委託先に分配することになるからです。
面積当たりの所得が高いことは、必要な労働時間が多いことの裏返しです。例えば水稲、畑作物、露地野菜などは面積当たり所得が低く、ハウストマトなどでは高くなります。それは水稲、畑作物の10a当たりの労働時間が10~40時間であるのに対し、ハウストマトでは1,000時間程度が必要で、水稲、畑作の25倍以上の労働時間を必要とするためです。
また、もう一つの視点として、労働時間当たり所得があります。小麦を除く畑作物や水稲では、時間当たり所得が3,000~5,000円ですが、ハウスで栽培される野菜類は1,000円前後になります。
労働時間当たり所得は作物で大きく違うので、規模拡大で不足する労働を外部に求める場合、委託料や雇用する労賃が時間当たり所得を上回らないか留意し、作付けの見直しや規模拡大を検討することが必要です(図2)。
Q3.所得の向上を考える際に、作物を選ぶポイントは何でしょうか?
所得を増やすには、収量の増加や品質向上で収益を増やし、支出する費用を減らすしかありません。その際に特に考えるべきことは、自分の経営が持つ労働力(量)と作付けの関係です。
機械化が進んでも人的な労働力(量)が足りなくなると収量品質に大きく影響します。また、働く人の健康を損なったり農作業事故の危険も高くなります。不足分を外部から調達すれば、労賃を支払うための費用が増えます。
例えば、16ha規模の稲作と畑作にトマト20aを導入した経営の労働力の過不足を試算すると、トマトの収穫期に入ると労働が不足し、米の収穫が始まると更に顕著になります。これでは、収量、品質とも低下し、見込んだ所得増に結び付かない可能性が高いことが分かります。(図3)
まずは、現状で自ら持っている労働力と経営規模、作付けが効率的に組まれているか確認することが大切なのです。