事業承継の取り組みを後回しにしていると、家族間の関係が悪化したり、思わぬ税負担で困ることも。農業専門の税理士事務所代表、森下浩さんに上手な対策の仕方を教えてもらいました。
この記事は2021年2月1日に掲載された情報となります。
税理士法人アンビシャス・パートナーズ
代表社員税理士 森下 浩さん
Profile:北海道大学 大学院農学研究科修士課程修了。農林漁業金融公庫(現・日本政策金融公庫)を経て2012年に税理士事務所を開業。雑誌「ニューカントリー」に「教えて税理士さん!」を連載しているほか、北海道農業経営相談所(北海道農業公社)のコーディネーターとしても活躍中。
早めの準備でリスクを回避
家族経営の事業承継は、相続税や贈与税が深く関わっています。準備を怠ると思わぬ税金が発生する場合もあるので、税理士の森下浩さんは「早めの着手が肝心」と強調します。
「例えば経営者の父親が亡くなる際、農地や事業資金を後継者の子どもAに相続すると遺言したとします。それでも他に相続人がいて『遺留分』を請求されれば、一定割合を分けなければなりません」
仮に亡くなった経営者の妻と、その子ども(AとB)がいたとして、Bの法定相続分は相続財産の4分の1。遺言があったとしてもその半分、8分の1は遺留分としてBに受け取る権利があります。
「父親が残した財産が農地だけだと、農地の8分の1か、その土地に見合ったお金(代償分割)をBに渡さなければなりません。お金を用意できなければ、農地が分散してしまいます。『たわけ者』という言葉がありますが、語源は『田分け』。相続で田を分けることの愚かさを表しているそうです」
事業承継にまつわるリスクはほかにもいろいろ。それらを回避する方法を森下さんに詳しく教えてもらいました。
円滑な事業承継のポイント
これまで数多くの事業承継を支援してきた森下さん。円滑な事業承継のために気を付けたいポイントを六つ、教えてくれました。
❶後継者も経営収支を把握すべし
収入がいくらで、経費の支払いと借り入れの返済がいくらで、手元にどのくらい残るのか。そうした収支を親から知らされていない後継者も少なくありません。後で「こんなに借金が多いなんて知らなかった」とぼやかないよう、確定申告書や決算書などを親子で共有して、現状を把握しておきましょう。
❷事業承継は、子どもの意志で
「長子が後を継ぐのが当たり前」とか「子どもには土地を守る責任がある」などといった押しつけはいけません。農業を継ぐかどうかは子どもが自分の意志で決めること。無理にやらされたという思いがあると、うまくいかない時に親のせいにしてしまいがちです。
❸ビジョンや理念の共有を
子ども主導で経営するようになる前に、どんな農業経営を目指しているか、話し合っておきましょう。親のやり方を引き継ぐ部分もあれば、子どもの代で変えていくところもあるはず。たとえ意見が食い違ったとしても「この土地を守り農業を発展させたい」という願いは同じはず。ビジョンを共有できれば、親は応援してくれます。
❹移譲したら、親は口を出さない
子どもに経営を任せたら、相談されるまで口を出さないのがルールです。「親」という字は「木の上に立って見る」と書きますが、少し離れた場所から見守るくらいがベスト。経営を移譲するまでに、自分の持っている全てを子どもに伝えるつもりで取り組みましょう。
❺話を切り出すのは親から
事業承継の話題は子どもからは切り出しにくいもの。ぜひ経営者の方から子どもに声をかけてください。子どもが後を継ぎたいと思うような、楽しい農業を実践するのも親の役目です。
❻話し合いが難しい時は専門家に依頼
当事者だけで話し合うのが困難な時は、税理士などの専門家やJAを頼りましょう。内容に応じた専門家を無料で派遣してくれる、北海道農業経営相談所も活用できます。
北海道農業経営相談所(北海道農業公社HP)
https://www.adhokkaido.or.jp/keieisodan/keieisodan.html