相続での事業承継ではなく計画的な引き継ぎを

引き継ぐことで農業を強くする

引き継ぐことで農業を強くする

実際に事業承継を行ってみると、思いの外大変だったという声をよく耳にします。そこで事業承継を行った方に苦労したことや、忘れずにやるべきことなどを伺いました。

この記事は2021年2月1日に掲載された情報となります。

飯野 芳彦さん

飯野 芳彦さん

Profile:1977(昭和52)年、埼玉県川越市生まれ。1997(平成9)年に就農し、小かぶ、枝豆等3.5haを経営する。2017(平成29)年度に、全国農協青年組織協議会会長を務めた。
江戸時代から続く農家の7代目となる飯野芳彦さんと、奥さんの綾子さん、長女の千晴ちゃん。従業員はそのほかに正社員が1名、パートが7名の合計9名で、約8品目を生産しています。
江戸時代から続く農家の7代目となる飯野芳彦さんと、奥さんの綾子さん、長女の千晴ちゃん。従業員はそのほかに正社員が1名、パートが7名の合計9名で、約8品目を生産しています。

10カ月では何も引き継げない

「相続による事業承継は、絶対にやるべきではありません!」というのは、全国農協青年組織協議会元会長の飯野芳彦さん。飯野さんも9年前に父親を亡くし、事業承継で非常に苦労した一人。だからこそ言葉に熱がこもります。不測の事態による相続でネックとなるのは「10カ月」という限られた時間で行わなければならないことです。

「農家では、『経営・技術』『資産・不動産管理』『親戚・地域のお付き合い』の三つを親から引き継がなければいけません。まして資産などの相続では、その期限に少しでも遅れると40%の重加算税が徴収されます」

親の四十九日が終わって、精神的に辛い中で、通帳や資産(借金も含めて)などを把握しなければならず、それらを探すだけで4〜5カ月はすぐに過ぎてしまいます。残り5カ月で農作業をしながら、すべて一人で決断していくのはプレッシャーだと言います。

「しかも、親が生きていれば徐々に引き継いでいくこともできますが、相続では期間内に『処分するか』『引き継ぐか』のどちらかに決めなければなりません」

もう少し早く事業承継していれば

あと5年早く事業承継していればと後悔する飯野さん。

「就農して9年後に事業承継したのですが、頼りにしていた両親が、それから2年のうちに相次いで病に倒れ働けなくなり、新たに人を雇うなどしたものの、数年は売り上げや利益がかなり落ち込んでしまいました。農業の技術はある程度引き継げていたと思いますが、そうした状況への備えなど、経営主として全体を見て判断する力や覚悟は足りてなかったと感じています」

また、事業承継時には、引き継ぐ側、譲り渡す側、双方が抱える不安を解決するのも大事なポイントのようです。

「そのつは『労務や税務、経営といった専門領域』、もうつは『親子の関係』です。前者は専門的な知識、後者は父親の威厳やプライドが邪魔をして感情的になるため、建設的な話し合いができる場が必要になります」

どちらの不安も、外部の専門家などが入ることで解消できます。

つ目は、税理士さんなどが、二つ目はJ‌Aの職員さんなどが親子に立ち会ってアドバイスを行うのが理想です。そうすれば、納得できる話し合いが行えると思います」

税理士などの専門家のアドバイスをもとに、定期的に労務・税務など含め、俯瞰的に全体を把握するのも経営者の仕事。
税理士などの専門家のアドバイスをもとに、定期的に労務・税務など含め、俯瞰的に全体を把握するのも経営者の仕事。

周りのサポート体制も重要に

計画的に事業を引き継ぐためには、どのようなことが大切になってくるのでしょうか。

「まず、親子のほかに外部の専門家が入って事業承継や経営状況についての会議を行うこと(年1〜2回)。その会議でのやりとりを文書化すること。引き継ぐ資産などのリスト化や移行時期を決めること。中期の経営計画を立てることです」

また「北海道ならではの課題もあるのでは」と、飯野さんは指摘します。

「それは、家族経営であっても売り上げ規模が大きく、若手農業者の経営を引き継ぐプレッシャーや不安も大きくなることです」

それを支えるのは、青年部など仲間同士でのグループディスカッションだと考えています。

「それによって、地域の事業承継のビジョンも見えてきます。J‌Aなどの協力も得て、そうした場を作ったり、結果をノウハウとして共有できる体制を整えていくと、計画的な事業承継も行いやすくなるのではないでしょうか」

何よりも大切なのは、「引き継ぐ子と譲り渡す親が共同作業だと思って、承継に関わること」だと、飯野さんは力強く思いを語ってくれました。

飯野さんが考える事業承継のポイント

ポイント1. 外部の専門家などを交えた事業承継や経営に関する会議を定期的に行うこと

ポイント2. その会議の議事録をつけること

ポイント3. 引き継ぐ資産などをリスト化し、移行時期を決めること

ポイント4. 短期・中期の経営計画を立てること