親子だからこそ難しい!?

まずはお互いに向き合おう

まずはお互いに向き合おう

親から子への事業承継はなぜ難しいのでしょう。事業承継の啓発に取り組む、JA全農の山田翔太さんに聞きました。

この記事は2021年2月1日に掲載された情報となります。

JA全農 耕種総合対策部 TAC推進課 山田 翔太さん

JA全農 耕種総合対策部
TAC推進課
山田 翔太さん

親子だけど進まない事業承継

農業経営の持続には、スムーズな世代交代が欠かせません。家族経営の場合、般的に親から子へ事業を承継することになりますが「何から手を付けていいか分からない」と、ついつい後回しになっている人もいるでしょう。そもそも親とのコミュニケーションが少ない、将来について話すきっかけがないなどといった事情もあるようです(図1)。

J‌A全農のTAC推進課で担い手支援に取り組む山田翔太さんは「親子でしっかり話し合う必要があると、双方が共通認識を持つことが大切」だと言います。

子が親に「(事業承継に必要な)廃業届はいつ出すんだ」といきなり切り出したり、親が子に「ちゃんと仕事ができるようになってから言え」とケンカ腰になったりすると、親子関係がこじれる原因にもなりかねません。改まって話す機会を持てないまま、ずるずると先延ばしになってしまいがちです。

事業継承計画が進まない理由は
図1.事業継承計画が進まない理由は
2017年・2018年JA全農調べ 複数回答有(回答者数65名)
〜JA青年部対象の研修会でのアンケート結果

事業承継はバトンリレー

親子の話し合いを先に延ばしていると、いずれ困ったことになるのは明白です。不測の事態で親が突然亡くなった場合、経営はどうなるでしょうか。栽培管理などの生産技術や機械の使い方などは子どもがある程度身に付けていたとしても、家の農業の歴史や、親の経営理念、経営の収支などはさっぱり分からないまま。「親が生きているうちにもっと聞いておけばよかった」と後悔するケースも少なくありません。

だからといって、親が焦って子どもに無理やり押しつけたり、教え込んだりするのは逆効果です。あくまでも主体は後継者である子ども。本人が自発的に親から受け継いでいこうと取り組まなければ、ことはうまく進みません。親が元気なうちに後継者の方から積極的にアプローチして、どんどん吸収していく前向きな姿勢が求められます。

事業承継はいわばバトンリレーのようなもの。親と子、つまり手渡す側と受け取る側の息が合わないと、うまく引き継ぐことができません。親子が面と向かって話し合うのは照れくさいかもしれませんが、まずは話し合いの準備から始めてみませんか。

まずはお互いに向き合って話し合いを

人・モノ・お金・情報・顧客

事業承継というと、つい名義変更の手続きや税金対策ばかりに目が向きがちですが、子が親から受け継がなければならないのは土地やお金だけではありません。J‌A全農が作成した「事業承継ブック」では、後継者が受け継ぐべきものを「人」「モノ」「お金」「情報」「顧客」の5項目に分類して整理しています。

モノとお金は目に見える資産なので分かりやすいですが、親が長い時間をかけて築きあげた人脈や情報、顧客などは目で見えない経営資源なので、後継者が受け継ぐのは簡単ではありません。代が変わっても地域の人や取引先との信頼関係を維持していけるよう、日頃から意識してお付き合いをしておく必要があります。

JAなどが第三者としてサポート

では、重要な5項目を確実に受け継ぐためにはどうしたらいいのでしょう。山田さんがおすすめするのは、第三者を交えた話し合いです。

「親子だけで話し合うとつい感情的になったり、子どもが自分の意見を言いづらかったりするので、J‌A職員や普及センターの指導員など、第三者に間に入ってもらうとスムーズに進むことが多いようです」

最近は営農指導や経営指導と同じ目線で事業承継をサポートするべきと考えるJ‌Aが増えており、J‌A全農でも親子の話し合いのきっかけになる「事業承継ブック」を活用した積極的な支援を呼びかけています。

「親の農業を子がそのまま続けるだけならつまらない。先代の経営を継いで、より強化していくのが本当の事業承継だと思います。親から子へ事業を譲るプロセスの中で、話し合いながら緒に経営改善していけたら理想的ですよね」

山田さんいわく「事業承継は経営改善の積み重ね」。やり方次第では経営を強化しながら世代交代が可能になります。

事業承継の大事な5項目

参考/JA全農「事業承継ブック」

事業承継の大事な5項目