この記事は2022年12月1日に掲載された情報となります。
北海道立総合研究機構 中央農業試験場
農業環境部 生産技術グループ 主査 杉川 陽一
Profile:北海道大学大学院地球環境科学研究科修了。2005年中央農試岩見沢試験地に入庁、2009年から現在まで中央農試本場に配属。主に小麦栽培に関する研究に従事。福井県出身。
POINT
●春播き小麦「春よ恋」は、植物成長調整剤を1回散布し、土壌・生育診断による窒素増肥と組み合わせることで、倒伏を避けながら増収とたんぱく向上が見込めます。
「春よ恋」は草丈が高く倒伏しやすいため、慣行の窒素施肥量は倒伏防止を前提として設定されています。しかし、生産現場では倒伏軽減効果のある植物成長調整剤(以下、植調剤)と窒素増肥を組み合わせて、増収とたんぱく向上を図る取り組みが広まりつつあります。今回、植調剤と窒素増肥の最適な組み合わせ方法をご紹介します。
植調剤の散布回数
各植調剤の散布回数は1回までですが、異なる剤を組み合わせる事例もあるため、その影響を調査しました。桿長(かんちょう)は散布回数に応じて短くなり、倒伏耐性は向上しました(図1)。しかし、2回散布では歩留まり低下や成熟期の遅れにより、製品収量が減収する事例がありました。このため、基本的には1回散布が適切です(写真1)。
窒素増肥・追肥による増収効果
図2に基肥増肥、幼穂形成期(幼形期)追肥、開花期尿素葉面散布を実施した時の増収量を示しました。地域や圃場により増収幅は異なりますが、3〜4kg/10aの基肥増肥や幼形期追肥で平均30kg/10a前後増収します。
道央やオホーツクでは基肥増肥の方が幼形期追肥よりも増収しますが、基肥増肥は気象・土壌条件次第で倒伏を招きます。倒伏を避けるために、増肥は幼形期追肥を基本とし、1㎡あたりの幼形期の茎数が、道央の窒素肥沃度「低」(熱水抽出性窒素5mg/100g未満)では950本、「中」(同5〜10mg)では800本、オホーツクでは窒素肥沃度によらず700本未満の場合に追肥します。道北では穂数が確保しづらいため、幼形期茎数にかかわらず追肥するか、基肥に増肥します。なお、道央の「高」(同10mg/100g以上)では、増肥や追肥による増収効果は小さい一方、倒伏リスクは高まるため、増肥は不要です。
開花期葉面散布による高たんぱく化
図3に基肥増肥、幼形期追肥、開花期葉面散布を実施した時のたんぱく上昇量を示しました。葉面散布による倒伏を防ぐため、穂揃期に草丈や穂数、葉色値(SPAD)等による生育診断を行います。穂揃期草丈(cm)×穂数(本/㎡)が、道央では5万以下、オホーツクでは4万6400以下の場合に葉面散布を実施します。道北では植調剤散布によって穂揃期草丈が約7%短くなるため、穂揃期草丈を補正(÷0・93)することで、従来の追肥要否判定(施肥ガイド2020参照)を適用できます。
「春よ恋」は葉が黄化しやすく、診断時に黄化が激しい場合の葉面散布は減収するリスクがあるため、葉面散布を控えましょう。
これまでの内容を表にまとめました(表1)。なお、慣行栽培で基準収量(道央、道北360kg/10a、オホーツク480kg/10a)未満の場合は、本技術よりも窒素肥沃度や土壌物理性の改善を優先した方が増収に効果的です。また、本技術の泥炭土への適用は、過去の収量や倒伏を考慮して慎重に行ってください。