この記事は2022年8月1日に掲載された情報となります。
北海道立総合研究機構
畜産試験場 技術普及室 主査 糟谷 広高
Profile:帯広畜産大学大学院博士課程修了。乳牛および肉牛の飼養研究を担当。2021年4月から道総研 畜産試験場 技術普及室 主査として技術支援を担当。
POINT
●新しい代用乳給与プログラムによる哺育期の発育改善、育成期や肥育期の飼料給与方法見直しにより、出荷月齢を2カ月短縮でき、収益性の改善が見込めます。
哺育期の哺乳量増加でその後の発育が大きく改善
人工哺育において、最大哺乳量を1日1200gとし、8週齢で1日600gに減じる「代用乳給与プログラム(推奨法)」(図1)。このプログラムは哺乳量増加と早期離乳を両立させる哺育方法です。70日齢での離乳が可能となります。
推奨法の8週齢での体重は89kg。哺育期間中の発育改善が確認できました(図2)。人工乳(固形飼料)の摂取も10日齢から見られ、55日齢から摂取量が増加。離乳時は1日1000g、104日齢では1日3000gに達しました。また、乾草摂取についても109日齢から増加し、120日齢では1日481gになりました。
哺育期の発育改善とスムーズな離乳を両立させる代用乳給与法として、本プログラムをおすすめします。
育成期は1日4kgを上限とした配合飼料で反芻胃の発達を促進
哺育期の発育改善により、体重と体尺値(体高や胸囲)の改善とともに、反芻胃の発達が早まります。哺育期の発育が良いので、推奨法では育成用配合飼料の給与を1日4kgにしても、図3に示したとおり、粗飼料である乾草を8カ月齢で1日4.6kg、9カ月齢では1日4.9kg摂取するなど粗飼料多給となります。また、反芻胃発達の指標として有効な腹囲は、推奨法により10カ月齢で200cmを超えてきます。
肥育後期の配合飼料給与法
慣行肥育の配合飼料給与基準では、15カ月齢の給与量が1日10kgと設定されています。一方で、育種改良により枝肉重量は年々増加しており、2020年度の黒毛和種去勢牛の北海道平均は516kgとなりました。今後は、改良によって大型化した肥育牛に対応した配合飼料給与基準の見直しも必要となるでしょう。
推奨法の配合飼料給与プログラム(図4)では、15カ月齢以降も増給を続け、19カ月齢から飽食給与となりますが、肥育後期の配合飼料摂取量は1日11kgを超え、24カ月齢で体重800kgを超える増体を示しました(図5)。
26カ月齢出荷でも慣行肥育(28カ月齢)以上の枝肉成績
慣行法と枝肉成績を比べると、推奨法は、26カ月齢出荷でも枝肉重量が538kgと慣行肥育以上の成績になりました(表1)。配合飼料給与量は慣行法が5.6tに対し、推奨法の26カ月齢出荷では4.9t。0.7tの低減が可能でした。枝肉価格から飼料費を引いた収益性においても、慣行法の89万円に対して推奨法は103万円の収益を確保しています。
技術のポイント
哺育から肥育まで順調に発育を促進させることで、26カ月齢出荷でも慣行肥育と同等の枝肉成績が得られました。これにより、濃厚飼料の低減と収益性の改善が期待できます。ポイントは、①哺育初期の発育促進のため代用乳は最大1日1200gまで給与、②育成期の濃厚飼料は1日4kgを上限、③11カ月齢から濃厚飼料を増給させ肥育中期以降は飽食給与、の3点です。収益性の向上を目指すため、ぜひ出荷月齢の早期化を図る技術をご活用ください。