この記事は2020年6月1日に掲載された情報となります。
ホクレン 営農支援センター 営農技術課 吉田 直人
POINT
❶にんじんの葉の赤化・黄化症状は「ニンジン黄化病」が原因の可能性があります。
❷アブラムシの防除と、収穫後の残渣物を越冬させないことが重要です。
にんじんの葉に生じる赤化・黄化症状
収穫時期のにんじんの葉が赤く、または黄色くなっているのを見かけたことはありませんか。このような葉の変色は、養分の欠乏、割れ、根部の腐敗などさまざまな要因で起こりますが、目立った異常が確認されない場合、「ニンジン黄化病」が原因の可能性があります。
ニンジン黄化病は虫媒性のウイルス病です。セリ科を好むニンジンフタオアブラムシ(写真1・2)によって媒介され、感染すると、特に下葉が赤〜黄化し大きな収量低下を招くため、欧米ではにんじんの生産における重要病害の一つとして位置付けられています(写真3)。
道内でも、同様の症状が広く確認されていましたが、原因特定の難しさから、多くが見過ごされていました。しかし今回、営農技術課の病理診断で、ニンジン黄化病が原因であると明らかになりました。
「ニンジン黄化病」の特徴
ニンジン黄化ウイルスは、関東地方でも報告がありますが、北海道での発生程度は不明でした。そこで、全道的な分布調査を行ったところ、道内でも広く発生していることが明らかとなり、栽培にんじんや、道端でよく見られる雑草の野良にんじん(栽培にんじんと同じ種)から高頻度でウイルスが検出されました。このことから感染したにんじんが越冬し、翌年の伝染源になっている可能性が高いと考えられます。
また、ニンジン黄化病はウイルスの単独感染で引き起こされますが、別種ウイルスと混合感染している例も国内で初めて確認しました。混合感染したにんじんは症状が更に重くなり、顕著な赤化や斑紋症状を生じます(写真4)。
なお、今回道内で見つかったウイルスの由来は不明ですが、関東地方で既に報告されているウイルスよりも、イギリスやアメリカで報告されているものと類似していることも分かりました。
生育への影響
感染によるにんじんへの影響を明らかにするため詳細な調査を行いました。その結果、ウイルスの感染で根重が低下し、更に混合感染時には健全時と比べ根重が半分程度になる恐れがあることが分かりました(図1)。このウイルスが道内に広く分布していることを考えると、実際は古くから発生しており、潜在的な減収要因となっていた可能性も考えられます。
「ニンジン黄化病」を防ぐために
本病への有効な対策は、殺虫剤による防除と伝染源の除去です。例えば長沼町の近隣では、媒介アブラムシは5月下旬より飛来し、栽培にんじんの上で(畦道の野良にんじんの上でも)増殖するため、この時期の防除が効果的です(例:ゲットアウトWDG 3000倍、平成23年指導参考事項)。ただし、発生消長は地域間で異なることも想定されるため、産地ごとの防除適期を検討する必要があります。
発病株の抜き取りや、堀り残しなどの残渣物を越冬させないことも重要です。また、にんじんにはさまざまなウイルス病を媒介することで知られる「モモアカアブラムシ」などの寄生も確認されています。本病害による被害を防ぐと同時に、その他作物への影響を減らすためにも、適切な防除対策を講じる必要があります。