
この記事は2025年8月4日に掲載された情報となります。
北斗市水稲採種組合
組合長 上出 幸治さん(中)
副組合長 斉藤 貴洋さん(右)
監 事 森井 洋和さん(左)
北斗市水稲採種組合について
1969年に設立され、2019年に50周年を迎えました。祖父母や親の代から営む生産者が中心で、設立当初は組合員24戸、栽培面積27haでスタート。高齢化や後継者不足により組合員は徐々に減少し、現在は約79haを11戸で分担、1戸あたり平均7ha、多い人では15ha以上を担当しています。なお、道南農業試験場で誕生し、現在も道南地域で多く生産される「ふっくりんこ」の種子を生産しているのは北斗市水稲採種組合だけです。
良質な種子生産のためには、省力化できない特有の作業があります。北斗市水稲採種組合で長年にわたり種子を生産する役員の皆さんから、その苦労や努力について話を聞きました。
良質な種子を生産するために
—水稲種子の生産と一般水稲生産の違いは?
水稲種子の生産には㆒般水稲の生産工程に加え、異品種混入や病害虫の発生がなく良質な種子を作るための、徹底した栽培管理が必要です(アグリポート41号「情報CLIP良質な水稲種子生産への取り組み」参照>>ページへ移動)。
育苗の段階から、ハウスを㆒般用と分け、種子の仕分けや消毒も厳格な管理のもと行います。

播種作業は昔から変わらず協力して行っています。
移植前に㆒度、道の調査が入った上で本田へ。圃場は他の生産者と調整し、同品種で団地化。予防的防除をすべて行うフルコース防除を実施します。
特に労力が集中するのが、異品種などの混入防止のために行う異型株の抜き取りです。
異型株を見分けるのは専門性が高いため、初心者では対応できず、熟練者が自分で圃場に入り、確認します。
この作業だけで1週間〜10日以上かかることもあり、また暑い中で行うため非常に負担がかかります。
AIやドローンによる異型株検出も試されたものの、精度や費用の問題から導入には至っていません。
全圃場を人が歩いて確認する方法が現状では唯㆒の手段となっています。
「ふっくりんこ」の原種も組合員が生産しており、原種圃の異型株の抜き取りは共同で行っています。

—設備や検査の違いは?
収穫は籾を傷付けないよう種子専用コンバインで作業します(写真4)。

乾燥も専用の乾燥機で低温(最大45℃)に設定。籾の水分量が多い収穫開始時期は1日中費やすなど時間をかけて丁寧に行います。
品質を均㆒化するため、2回目の乾燥と調製は種子センターで㆒括して実施。出荷前には調製ラインごとに、日別でDNA検査を実施し、品種純度を確認します。
コンバインと乾燥機は、異品種や異物混入防止のため、使用前後にできる限り分解しながら徹底的に清掃しています。
種子生産を持続させるために理解し合うことが大切
—生産現場での問題点は?
組合では過去10年間、新規に加わった生産者はおらず、平均年齢は50代後半、若手でも40代が最年少。75歳を超える生産者もおり、後継者が決まっている人もあまりいません。
「祖父の代から50年以上続けてきた」「辞めれば地域全体に迷惑がかかる」という責任感と、地域農業への思いから続けている生産者は少なくありません。
㆒方で、資材や燃料、機械なども高騰し、個人の努力だけで継続させることが困難になりつつあります。
—生産現場を持続させるためにできることは?
水稲種子生産に取り組んでくれる人が増えればと思いますが、特に、種子生産者の苦労を間近で見ている地域の水稲生産者などは、マンパワー的に自分が担うのは厳しいと考える人が多いようです。
我々組合の中には、㆒般水稲も生産する人が多くいて、種子の購入価格が上がるのは苦しいという気持ちも分かるため、「お互いの気持ちを理解し合いたい」という思いがありますが、もう少し種子生産の手間やコストに見合った対価が得られるようになれば、新たな担い手も現れるかもしれないと考えています。