道総研 農業研究本部 道南農業試験場

カーネーション最需要期での出荷を目指して

キーワード:カーネーション温暖化異常気象高温
写真4母の日先行出荷をしているハウス
写真1.母の日先行出荷をしているハウス
この記事は2025年8月1日に掲載された情報となります。

道総研菅原魁人さん

道総研 農業研究本部
道南農業試験場 研究部
生産技術グループ 菅原 魁人さん

 

夏の高温によりカーネーションの採花本数や品質が低下しています。道南農業試験場では新しい技術を組み合わせ、これまでの夏秋切りに加えて、高単価で出荷できる春夏切り作型を提案する試験が始まっています。

 

POINT

  • 最需要期である母の日からお盆にかけた出荷を検討

  • 暑さと戦わず、夏の栽培を避ける作型へ

  • LED電照は目的に合わせて導入

  • 基本技術の徹底(肥培管理、薬剤の選定、潅水頻度、作業の進捗管理)

  • 関係機関に現場の意見の発信を

 

最需要期の出荷を実現するため

—カーネーション栽培を取り巻く環境は。

北海道でカーネーションの栽培が盛んな地域は七飯町と月形町です。道内はもちろん関東、関西、九州まで出荷されています。

しかし、花きは機械化が難しく手作業への依存度が高い品目であり、特にカーネーションは手間がかかるため、全国的に栽培面積が減少しています。

また、北海道では夏の高温により採花本数が減少。秋には品質も低下傾向にあります。

更に、高温により生育が前進して需要期とずれてしまうため単価が伸び悩み、資材の高騰もあって収益を圧迫していました。

—そうした現状を打破するための研究が始まったそうですね。

遮光や細霧冷房等で暑さと戦うのではなく、高温期の栽培を避ける作型に変更して「最需要期である母の日からお盆にかけて出荷する」ことが研究テーマです。

これまで5月の母の日に出荷するには、前年の8月に苗を植えないと間に合いませんでした。また冬もかなりの暖房が必要でした。

しかし、温暖化の影響により、秋の定植でも間に合う可能性があります。また、春の到来が早まっているため、冬の暖房費も抑えられると考えています。

道南農業試験場では、今年から春夏切りの作型で栽培試験を始める予定です(表1)。

 

表1作型の違い
表1.‌作型の違い
夏秋切りは大きく分けて2パターン。春夏切りは需要期に高値で販売できます。

 

—どんなメリットがありますか。

道外産地では6月に定植することで暑い時期を苗で乗り切り、10月頃から出荷を始め、母の日の5月で終わりです。

6月が端境期で、北海道産に切り替わる流れでした。しかし、道外産のカーネーションも暑さの影響で5月まで品質を維持するのが難しくなってきています。

北海道のカーネーション生産を春夏切りに変更した場合、母の日向けの出荷はシーズンの初期となるため、花の品質も良く、競争力の向上が期待できます。

カーネーションの最大の需要期は母の日であり、年平均の2〜2.5倍程度の単価で取り引きされています。

そのため、多少暖房費がかかっても十分に採算が取れると考えられます。また、今後、冬日が減少すると予測されるため、暖房コストも徐々に下がると思われます。

—実現のために必要なのは、どのような技術ですか。

LEDによる生育促進と鮮度保持の技術です。秋に定植する場合、北海道は日長が短い時期となるため、LEDによる長日処理の生育促進効果が発揮されやすいと考えられます(写真2)。

 

写真2生育促進効果のあるLEDの電球
写真2.生育促進効果のあるLEDの電球
LEDに対する反応は、カーネーションの品種によって違います。光の波長によっても効果が違うため、目的をはっきりさせてから導入しましょう。

 

鮮度保持の技術はいろいろありますが、そのうちの㆒つがM‌Aフィルムの包装資材(写真3)。

 

写真3‌MAフィルムの包装資材
写真3.‌MAフィルムの包装資材
MAフィルムには保湿や老化を防ぐ効果が期待できるものの、花を袋に入れて箱に詰めるのに労力を必要とすることが課題。

 

すでにブロッコリーの輸送などで活用されています。こうした技術を組み合わせることで、花をできるだけ新鮮な状態で保管し、需要期に合わせた出荷を目指しています(写真4)。

 

写真4日持ち調査
写真4.日持ち調査
カーネーションを2週間ほど冷蔵庫で保管してから出して、日持ちを調査。鮮度保持の技術が確立すれば、花を採りためて出荷時期をコントロールでき、労働の平準化にもつながります。

 

共に発展していくために

—生産者が取り組めることはありますか?

LEDの電照は、波長(電球)によって効果が異なります。品種によって反応も違います。目的に合わせて正しく使わなければ逆効果になることもあるので注意してください。

また、肥培管理・潅水頻度・薬剤の選定・作業の進捗管理など、基本技術も今㆒度、見直して徹底しましょう。施設園芸は露地栽培に比べ天気の影響が小さく、適切な管理を徹底すれば、今後の展望も明るいと考えられます。

生産者の皆さんも積極的に情報交換の場をつくり、試験場や普及センター、振興局、種苗メーカーなどにどんどん意見を発信してほしいです。関係者全体で花き栽培の発展に取り組んでいきたいと考えています。