緑肥のすき込みにより土壌微生物が増殖、活性化することが知られていますが、作物の種類によっては有用微生物を増やしたり、有害微生物を減らしたりする効果を有します。土壌の生物性を改善する緑肥作物をご紹介します。
この記事は2022年10月1日に掲載された情報となります。
ホクレン畜産生産部 自給飼料課
有用微生物により養分吸収を促進・活用する緑肥作物
●ヒマワリ(夏りん蔵(63A21)、春りん蔵(P63HE60))
ヒマワリはAM菌(アーバスキュラー菌根菌)の宿主作物です。AM菌は植物の根の外側に菌糸を伸ばし、リン酸などの養分や水を吸収して、共生している植物に運びます。リン酸は土壌中で極めて動きにくいため、作物のリン酸吸収を促進するのにAM菌は有用です。ヒマワリなどの宿主作物を栽培することで土壌中のAM菌密度が高まり、後作物に再び宿主作物(とうもろこしやねぎ類など)を作付けするとリン酸吸収が促進されます。
「夏りん蔵(63A21)」は秋播き小麦収穫後に播種しても開花する極早生品種で、道東では8月20日まで、道央では8月末までの夏播種で50〜60日後に開花します。草丈が1〜1.5mと短桿(たんかん)で倒伏に強いため、密植が可能です。
「春りん蔵(P63HE60)」は春播種向けの晩生品種で、播種後2カ月半程度で開花。草丈は約2mと大柄で多収な品種で、土壌に多くの有機物を投入できます。
紅葉とコラボも可能な「夏りん蔵(63A21)」
●播種量:1〜1.5kg/10a
●播種時期:8月上旬〜下旬 ※道東は8月20日まで
●すき込み時期:10月上旬〜下旬
大柄で多収な「春りん蔵(P63HE60)」
●播種量:0.5kg/10a
●播種時期:5月上旬〜下旬
●すき込み時期:7月上旬〜下旬
●ヘアリーベッチ(まめ屋)
ヘアリーベッチはAM菌宿主作物で、ヒマワリと同様に後作物のリン酸吸収を促進します。また、根に共生する根粒菌の働きで大気中の窒素を利用し生育、すき込み後は分解されて後作物の窒素源として働きます。また、C/N比が低いため、すき込み後の分解も速やかで、後作物の窒素肥料の減肥が可能です。
「まめ屋」は、生育が早く夏播種でも作付けが可能な品種です。早期に裸地を被覆し雑草繁茂を抑制するので、ヒマワリやエンバクとの混播もおすすめです。
夏播種でも多収な「まめ屋」
●播種量:5kg/10a
春播種の場合
●播種時期: 5月上旬〜下旬 ●すき込み時期: 7月上旬〜下旬
夏播種の場合
●播種時期:8月上旬〜中旬 ●すき込み時期:10月下旬
「まめ屋」とヒマワリの混播
●播種量
「まめ屋」: 3kg/10a
ヒマワリ「夏りん蔵(63A21)」: 1〜1.5kg/10a
「まめ屋」とエンバクの混播
●播種量
「まめ屋」: 2〜3kg/10a
エンバク「スワン」: 7〜8kg/10a
有害生物の被害を低減する緑肥作物
●アウェナストリゴサ(プラテックス、サイアー)
アウェナストリゴサ(野生種えん麦)は、有害生物であるキタネグサレセンチュウの密度低減効果を有します。一般のエンバクは、手軽に有機物施用効果を得られる便利な緑肥作物ですが、キタネグサレセンチュウを減らす効果はありませんので、注意が必要です。アウェナストリゴサはエンバクより出穂がく、生育期間がやや長い作物です。熟期の違う2品種を取りそろえていますので、播種時期に合わせて品種を選択することができます。
「サイアー」は長年キタネグサレセンチュウ対策に利用されてきた実績豊富な品種です。晩生品種ですので、生育期間が十分保たれる春播種利用が特におすすめです。出穂揃まで生育させると多収となり、多くの有機物を土壌に投入することができます。
「プラテックス」は「サイアー」より出穂が早い中生品種で、生育が早いため夏播種利用では「サイアー」より約8%多収です(ホクレン北見試験圃3年間平均値)。キタネグサレセンチュウ密度低減効果は「サイアー」と同様に高く、また播種が8月下旬と遅くなった場合を想定した試験においても、キタネグサレセンチュウを約8割減らす効果を示しました(北農研2013)。
土壌微生物に着目しておすすめの緑肥作物をご紹介しました。用途に合わせて、ぜひご利用を検討してください。
秋播き小麦後の定番「プラテックス」※8月17日播種、10月4日撮影(2021年 長沼町)
●播種量: 10〜15kg/10a※センチュウ密度が高い場合は15kg/10a
●播種時期: 8月上旬〜下旬
●すき込み時期: 10月中旬〜下旬