この記事は2024年6月10日に掲載された情報となります。
北海道農政部 生産振興局 技術普及課
統括普及指導員(農業革新支援専門員)
成松 靖さん
2023年の北海道の気象はどのように推移し、生産現場にはどんな影響があったのでしょう。北海道農政部の成松さんにお聞きしました。
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Q.2023年はどのくらい高温だったの?
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A.記録的な高温やゲリラ豪雨が発生した年でした。
気温は春、夏、秋を通して高温傾向で推移。7月から8月は猛暑日、真夏日の日数が高温年だった2021年を上回った地点が多く、記録的な高温の年になりました。
また、最低気温も平均気温の平年値並みに高く、夜の気温が下がらなかったのも特徴です。高温により夜間に植物の呼吸にエネルギーが多く消費され、さまざまな作物の品質に影響が出ました。
オホーツク地方では、6月から7月にゲリラ豪雨が度々発生するなどの極端な気象になりました。
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Q.高温はどんな被害をもたらしたの?
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A.高温により低品質・低収量や、収穫時期のずれが発生しました。
作物が生長する時期の高温により稲の分けつ不足、豆類や果菜類での落花など異常な状態をもたらしました。
夜温の高さによる品質低下も目立ちます。また、畑作や園芸では生育が前進し、早期枯れ上がりによる低品質、低収化のほか、畜産の飼料作物では収穫時期のずれが作業全体に影響を及ぼしました。
特に昨年は、地域や作物によって高温や多湿で多くなる病害が多発しました。更に、マメノメイガなど北海道外からの飛来性害虫も多発していました。
畜産では高温により牛の体力が低下し、乳質や繁殖成績にも影響がありました。
水稲の被害
●幼穂形成期が早まった影響で稲の栄養成長が進まず穂数、籾数が減少。高温で白未熟粒も発生し、整粒歩合が低下。
●夜間の気温が高かった影響で転流抑制が起こり籾に十分にでん粉が蓄えられず、白未熟米や死米が発生(写真1)。
●高温の影響で稈長が急激に伸び、稲の軟弱化や紋枯病が発生したため、倒伏が多く発生(写真2)。
畑作の被害
●小麦は4月から7月の高温・乾燥による赤さび病の多発、根張り不足により早期枯れ上がりが発生(写真3)。
●豆類は開花時期に少雨・乾燥の影響で落花、そのため茎葉の二次生長が起こり、茎の水分低下遅滞で収穫に影響。
●てん菜は褐斑病が多発したほか、夜温の高さの影響で根中糖分上昇が停滞し、極端な低糖分に(写真4)。
園芸の被害
●高温による花粉稔性低下などでの受精不良で、トマトの着果不良、スイートコーンの先端不稔、いちごの奇形果など。
●ブロッコリーは生理障害として不整形花蕾(写真5)が発生したほか、高温多湿で多発する黒すす病が発生。
●出芽時の高温や生育時期のずれにより、ほうれん草の出芽不良や生育遅延(写真6)、生育前進によるスイートコーンのしなびなど。
畜産の被害
●夏季の牛舎内の暑さにより食欲不振が起こり、繁殖成績の低下、生乳生産量・肉牛の増体が低下。
●牧草は夏枯れが発生。飼料用とうもろこしは登熟の早まりで収穫遅れ。サイレージが腐敗し貯蔵飼料不足、廃棄作業増加。
●乳脂肪率が9月にも回復せず乳価や加工乳の生産に影響、乳タンパク質率も8月に大きく下がり品質に影響(図3)。