この記事は2024年4月1日に掲載された情報となります。
水野 弘樹さん(JAびらとり)
Profile:21歳で就農して8年目。弘樹さんがトマト、父がきゅうり・寒締めほうれんそう・水稲を管理。2023年7月に全国農業青年クラブ連絡協議会の会長に就任。野菜ソムリエの資格も持つ。
「環境モニタリングで考え方が変わった」と言う平取町の水野弘樹さん。農業改良普及センターの普及員とデータを共有。きめ細かな助言を受けて成果に結び付けました。
POINT!
•データでトラブルの原因や摘葉のタイミングが分かるのは大きい。
•環境モニタリング機器は、導入後にデータで管理できるかが鍵。
•一人ではなく仲間と共に導入し、情報共有すべき。
トラブルの原因が検証できる
平取でトマトを栽培する水野弘樹さん。環境モニタリングはハウスを密閉する抑制栽培に用いるもので、簡易パイプハウスの夏秋どりには関係ないと思っていました。
ところがモニタリングの実証試験に協力してデータを見るようになると気付くことが多かったそうです。
「トラブルの原因が分かるようになりました。たとえば以前は過湿でカビが出るのが怖くて、早朝にハウスを全開にしていましたが、モニタリングの数値を見ると、それが乾燥を招いていた。そのせいで葉先が枯れるんだと分かったんです。日射量もできるだけ光に当ててやろうと思っていましたが、光が多すぎて花が乾き、着果を悪くさせていた。今は4月末から遮光するようにしています」
データで検証できるから同じミスを繰り返さなくなり「栽培に対する考え方がガラッと変わった」と打ち明けます。
葉面散布も防除も激減
水野さんのハウスに環境モニタリング機器「みどりクラウド」が設置されたのは2021年。普及センターが「ICT機器を活用した生育管理」を重点活動に位置づけ、それを使った栽培の実証試験を依頼されたのが始まりでした。
2022年のテーマは摘葉管理。担当したのは農業改良普及センター日高西部支所の小川洋平さんと笹村星夜さんです。毎週ハウスを訪れてトマトの生育を調査し、モニタリングの数値と見比べられる報告書をつくってくれました(写真4)。
「着目したのは、空気中に水蒸気を、あとどのくらい含む余地があるかを示す『飽差』の数値です。値が低すぎると、空気中に水蒸気がいっぱいなので、摘葉して通気を良くし、飽差を適正値に調整することで、病気のリスクを減らすことができます」と小川さん。
水野さんも「データで摘葉のタイミングが分かるようになり、防除の回数が減りました」とうなずきます。
普及員と二人三脚で実証試験
摘葉管理に続いて、昨年は変温管理の実証試験を行いました。変温管理とはトマトの生理生態にあわせて1日の時間帯で温度を変化させる方法です。
「たとえば、夜明け前から徐々にハウス内の温度を上げることで、日の出からよーいドンで光合成ができるようになります」と小川さん。実際に取り組んだ水野さんも変化を実感しました。
「以前は早朝に葉先枯れしないよう葉面散布をしていましたが、温度を徐々に上げるだけで葉がしおれなくなった。だから葉面散布も葉先枯れの葉を切る作業も不要になりました。早朝の結露もなくなって、カビが出なくなったので防除も激減しています」
暖房の灯油代のコスト増が心配でしたが、十分に採算がとれることも確認できました。今後はこうした試験結果をトマト生産部会で報告し、変温管理の栽培技術を広く普及していく予定です。
「環境モニタリング機器は導入して終わりじゃなく、データを活用した管理ができるかどうかがポイント。仲間で情報共有できたらいいですよね」と普及員の笹村さん。
実際、平取では若手農業者を中心に環境制御を勉強するグループが自主的に組織され、グループラインで頻繁にやりとりをしているそうです。
「もうモニタリングなしでの栽培には戻れない」と水野さん。いずれはハウスの自動開閉や自動潅水などの制御装置も導入したいと思い始めています(写真5)。