農協の各種データを統合し、外部機関から提供された情報も加えた「家畜統合管理システム」。大がかりな仕組みを独自に構築したJAひがし宗谷に、開発の経緯や利用状況を聞きました。
この記事は2021年10月1日に掲載された情報となります。
酪農は情報産業 データを活用し手間を減らす
JAひがし宗谷 営農部
部長 石黒 敦さん
牛のデータは誰のものか?
「牛のデータは本来、農家のものなのに、乳検や人工授精などはデータ提供側の都合でバラバラに管理されていて農家目線で考えると使いにくい。乳量や乳成分、病気、種付け、販売など、各種の情報をいっぺんに把握できないか、と思っていました」
こう話すのはJAひがし宗谷の石黒敦さん。情報を一元管理できるシステムの青写真を構想し、国の事業に応募。採択が決まり、2014年から構築に着手しました。
「人工授精情報、家畜販売管理、生乳生産情報、預託牧場での管理、クミカン管理と、JAが持っていた五つのシステムを、牛の個体識別番号に紐付けする方法で順次統合していきました」
その後、家畜改良センターやNOSAI、北海道酪農検定検査協会など外部システムとも連携し、更にデータを充実。酪農家全戸(131戸)にタブレットを配布して、双方向で情報をやりとりできるようにしました。
「これまでは子牛が産まれると、農家さんが電話なりファックスなりで家畜改良センターやJAに登録を申請。その上、雄の子牛ならば2週間後の市場申し込みも紙面に記入し、JAに提出する作業がありました。統合管理システムなら、それぞれの作業はシステム入力一つで手間がかかりません」
人工授精や個体販売の受け付けなど連絡調整も、システムを通すことでごく簡素になりました。
利用率は酪農家の8割弱
「例えば分娩予定日を確認するにしても、従来は授精台帳を持ってくるところから始めなければなりませんが、今はタブレットのボタン一つ。圧倒的にスピーディーです」と石黒さん。繁殖管理を農場全員で共有できるため、タブレット導入を機に親が子に繁殖管理を任せるなど、世代交代につながるケースもあったそうです。
「飼養管理だけではなく経営管理にも生かしてほしいから、クミカンの情報も一緒にしてあります。月々の計画と実績の差異が表示されるので、いくらの黒字もしくは赤字になるかが明らか。わざわざパソコンを持ち出さなくても庭先でタブレットを見ながら経営の相談もできます」
酪農家全戸にタブレットを配付して6年目となる今年4月のシステムのログイン率は、搾乳戸数の76.5%。生乳検査の数値のチェックや、子牛の出生報告などを中心に、8割近くの人がシステムを使いこなしている計算です。
「若い後継者がいる生産者が少ない中、驚異的な数字ですね」と驚く石黒さん。今後、草地更新の履歴や所有機械など固定資産の情報も、この統合システムに組み込んでいきたいと考えています。
→ここが変わった!
タブレット端末で情報にアクセスしやすい
酪農家全戸にタブレット端末を配付したのは2015年。当時はまだスマホを使っていない人も多かったので、まず操作に慣れてもらうことを優先しました。JAと猿払村役場が連携し、村の防災ホットメールもこのタブレットへ配信。牛舎にいても津波などの緊急事態に気づけるように配慮しています。
→ここが変わった!
利用者ごとに情報を確認、対応できる
酪農の組合員にはIDカードを2枚配布しています。1枚はクミカン情報まで見られる経営者用、もう1枚は飼養管理の情報に限ってアクセスできる従業員や家族用。いずれもGoogle ChromeならIDカードをかざすだけで自動的に統合管理システムにログイン可能。IDとパスワードを入力すれば、どんなブラウザでも利用できます。