この記事は2019年4月1日に掲載された情報となります。
夫と共に実家の酪農を引き継ぎ、経営や地域活動を担ってきた中村由美子さん。全道の女性農業者がもっと経営に深く携わっていけるよう、交流や学びの機会を提供しています。そこにはどのような思いが込められているのでしょうか。
中村由美子さん
実家で夫と酪農に奮闘
千歳市駒里で酪農を営み、地域の農協理事、農業委員に加え、北海道女性農業者ネットワーク「きたひとネット」の会長ほか、多数の役職を務める中村由美子さん。
自身は開拓農家の娘として生まれ、酪農経営を学ぶため酪農学園大学に進学しました。同級生だった夫と卒業と同時に結婚し、実家で共に就農したのが40年前のこと。
農業経営にも青色申告が普及し始め、周囲にも妻が帳簿を担当して経営を見る家も多く、中村さんの家庭でも経営を引き継いでからは、夫と二人三脚で歩んできました。
駒里地区は早い時期から共進会に女性も参加。そろいの赤いつなぎを着て登場するなど、やりがいを持って取り組める環境にあったと言います。
女性同士が共に考えて切り開く
そんな中村さんにも昔は農業者の会議に「女性の声を取り入れたい」と呼ばれて出席すると、「女性がこんな会議に出ていいのか」と批判された経験があります。
「そういう時は、にっこり笑って反論すればいい。時代が変わるためには、ここで自分が変わらないと。最初の一人がOKになれば、その後の人もOKになるんです」
そうして道を切り開きながら交友関係を広げる中村さんには、女性のさまざまな声が耳に入るようになりました。
「夫や、夫の親と向き合って本音を話せない女性もたくさんいました。でもそんな人たちも、ある時爆発して夫に手袋を投げつけながら怒ったとか。そうして関係が変わっていった人も多いんです。一度嵐を呼んででも、乗り越えようとするかどうかで変わります。そして、それを支える環境も必要です」
そのために、女性が農業経営を学び、家庭でも地域でも、もっと役割を担えるよう「きたひとネット」や「酪農女性サミット」などを運営。女性同士が共に考えて切り開くため、交流する場を積極的に設けています。
それぞれの能力で輝いて
「男性だから経営能力があるとは限らない、女性は夫に幸せにしてもらえるとは限らない。男女関係なく、自分の能力を活かせる場で輝いていくべき」と中村さん。
家族経営協定※や認定農業者共同申請に関する相談も多数寄せられ、妻や嫁も経営者として発言権を持っていくためには必要な制度だと言います。
※家族経営協定:家族農業経営に携わる全員が、経営に参画し、魅力的な農業経営ができるよう、それぞれの役割や労働時間、労働報酬などの就業条件を十分に話し合い、取り決めて明文化する協定のこと。
「農業をするために家族になったのではなく、家族の生活を豊かにするために農業をやっていますから。みんなが力を出し合い、合理的に仕事をするためにも、このような制度をうまく使ったことでやる気が出たという声も多く聞いています」
女性農業者が持つ悩みについて、SNS上で皆で考えることも多いとか。若い女性農業者が輝いていくためには、「情報を得ようとする気持ちを持ってほしい」と、その願いを込めて自身もSNSを通して発信し続けています。
「学んで良い情報を持って帰れば、家庭でも意見を聞いてもらえます。JAカレッジや農業女子プロジェクトなど学ぶ機会は多く、得るものがあるのでたくさん見て聞いてほしいですね」と、女性農業者にエールを送ってくれました。
「中村さんの農力」
つながる「きたひとネット」
全道の女性農業者が経験や思いを共有し学ぶために組織したグループ「きたひとネット」は設立から11年になります。中村さんは設立当初から携わり、当時は事務局長、現在は会長として運営を担っています。
農産物のおいしさを伝える活動も
石狩管内の女性農業者仲間と一緒に、「ケータリング美利香(ぴりか)」を立ち上げました。地元で採れた旬の農産物や魚介類を調理し、イベントなどで提供。農業に親しんでもらうきっかけにもなっています。