この記事は2019年2月1日に掲載された情報となります。
道総研 上川農業試験場
地域技術グループ 主査 菅原 章人さん
(現 北海道原子力環境センター 農業研究科長)
Profile:北海道原子力環境センター 農業研究科長。帯広畜産大学大学院修了。上川農試、道南農試、中央農試などを経て平成30年から現職。園芸作物や畑作物の試験を担当。
POINT!
❶子づる4本を秋まで収穫。孫づるは摘除する。
❷秀品収量が増えて、秀品率が高まる。労働生産性が高い。
❸つる下ろし作業が増えるが作業が容易で、慣れない人にも管理作業を任せられる。
匠の技が必要なきゅうりの整枝
きゅうりは、漬け物、サラダなど、パリッとした食感がみんなに好まれる野菜ですが、技術伝承が難しく後継者や新規就農者から敬遠される品目でもあります。
栽培マニュアルには「摘心・摘葉は、混み合わないよう適宜行う」と書かれていますが、つるや葉の調整には、草勢や葉の茂り、温湿度を勘案する匠の技が必要です。
そのため、作業を家族など他の人に任せることができず、経営主など特定の人だけが、暑いハウス内で毎日、長時間行っています。
そこで、そうした状況を改善できる、道外で行われている子づるを伸ばし続ける整枝法(つる下ろし栽培)について、北海道の無加温半促成長期どり作型(5月下旬から10月中旬まで収穫)で栽培試験を行いましたので紹介します。
つる下ろし栽培の導入で慣れない人でも作業できる
つる下ろし栽培は、親づるから4本の子づるを誘引し、その子づるを10月まで伸ばして収穫を続ける栽培法です。子づるから出る孫づるは全て摘心します。
上に延びる子づるは誘引ピンチをいったん外してつるを下ろします。下ろしたつるは、最終的には10mもの長さになるので横にずらしていきます(図1、写真1)。
つるを下ろした時に、地面に着く葉は全て摘葉します。つるの先端には常に生長点があり、肩の高さで開花し、膝の高さできゅうりが実ります。
この栽培法は、新たにつる下ろし作業が増えるものの、作業は単純です。経営主自身でなくても、作業に慣れない家族や従業員に収穫時期のきゅうり管理を全て任せることができます。
つる下ろし栽培で収量性が高まる
子づるの生長点により草勢が維持されるため、秀品収量が慣行対比で137%と増え、秀品率が高くなります(図2)。
作業を行う高さが揃い、機械的に連続して作業が行えるため、収量が増加しても、収穫時間、摘心時間、摘葉時間は減ります。
なお、新たにつる下ろし作業が加わるので合計の作業時間は増えますが、つる下ろしで増えた作業以上に秀品収量が増えることから、秀品きゅうり千本当たりで必要な作業時間は減ります(図3)。
慣行の摘心栽培と同じ時間だけ働くとすると、秀品収量は107%と増え、必要なビニールハウスの面積は78%で済みます。
また、つる下ろし栽培の薬剤防除では、葉が重ならずに均等な間隔で展開し上に向いているため、群落内の風通しが良く薬剤を均一に散布することが容易で、散布時間も少なくて済みます。
以上の結果を導入のポイントにまとめました(表1)。
収量性の向上に加え、雇用労働の導入も可能になるため、偏った長時間労働を減らす一石二鳥の栽培方法として参考にしてください。