VOL.3

農業経営における「投資」について考えてみましょう

キーワード:安定家族農業経営投資

農業経営における「投資」について考えてみましょう

 

この記事は2017年6月1日に掲載された情報となります。

 

農業経営を続けるために欠かせない「(設備)投資」をどうするかは、経営に大きく影響します。その際に考えるべきポイントについて、渡邉 和義さん(前JA北海道中央会 営農指導支援センター営農指導課 専門指導員)にお話を伺いました。

 

渡邉 和義さん

渡邉 和義さん

Profile:昭和62年より専門技術員として上川、中央農試、道農政部に勤務し、平成15年道立十勝農試技術普及部長、平成17年道農政部首席専門技術員を経て、平成20年より29年3月まで道中央会営農指導課専門指導員として、JA職員や生産者の営農指導関連の指導や助言などに取り組む。近著に『営農指導論』平成28年全中、『農業経営の診断と分析』『JAの営農指導』北農中他。北海道美幌町出身。

 

Q1.経営の安定性をどのように考えるのか?

収益や所得の拡大には、さまざまな投資が必要になります。しかし、安定した経営を保ちながら投資するには、現状の経営はどうか、投資した資金の回収がどうなるか、数字で確認が必要です。

現時点の経営が不安定なのに大規模な投資をすれば、効果が出る前に行き詰まることもあります。計画する時は、支出はやや多めに見積もり、収支に余裕を持たせる必要があります。

借入金で投資する場合は、さらに余裕を持った償還(返済)計画が求められます。安易な計画では、償還する資金がショートすることもあるからです。据置期間のある借入金の場合、据置期間は償還しなくて良い期間でなく、償還する資金を確保する期間と意識すべきです。

 

Q2.目安となる経営指標とは?

経営の安定性を計る指標として、自己資本比率、売上高負債比率、支払利息比率があります。青色申告などで使う、貸借対照表と損益計算書の数値から計算できます。

自己資本比率は、経営につぎ込む資金のうち、自己資金の割合を計るものです。資金を回収できる速さの違いで、農業では60%以上が必要と言われます(銀行などは9%前後、小売業で20%前後)。

これは自動車など製造業と同じで、生産工程を持つので機械施設の投資額が大きい反面、回収率が低いので他より高くなっています。

自己資本比率が60%ぐらいの時、売上高負債比率は60~80%程度になります。自己資本比率が60%を下回り、売上高負債比率が80%以上の経営では、大規模な投資が難しいといえるので、まず自己資金の確保が重要です(表1)。

 

表1.経営の健全さを示す指標
表1.経営の健全さを示す指標(※支払利息比率は、金利情勢によって変化するので、現状における指標値)
●自己資本比率=自己資本÷総資本(自己資本+他人資本)
(返済不要の自己資本が全体の資本調達の何%あるか示す数値)
●売上高負債比率=負債合計÷販売額
(借入負債額が販売額の何%あるか示す数値)
●支払利息比率=支払利息÷販売額
(毎年の支払利息が販売額の何%あるか示す数値)

 

Q3. 農作業機の投資の考え方は?

投資を行う際には、投資が経営のどの部分で効果を発揮するのか、絶えず十分に吟味する必要があります。例えば、農作業機の大型化についてみると、導入する機械の能力が経営規模に合っているか見極めが大切です。規模に合わないものの導入は、過剰投資となり経営収支を圧迫します。

グラフは馬鈴薯の作業機を例にした利用規模とha当たり機械費用の関係です(図1)。

 

図1.作業機の利用規模と機械費用の関係(馬鈴薯)
図1.作業機の利用規模と機械費用の関係(馬鈴薯)

 

規模拡大に対応するため機械を大型化すると、導入時点では能力に見合う利用規模が確保されないので、ha当たり費用は導入前より高くなってしまいます。利用規模の拡大に従い下がっていきますが、各種作業機導入の都度コストが上がるので、費用は鋸刃状に変化します。

個別経営の規模が拡大し、不足する労働力に対応した農作業機導入を検討している方も多くいます。しかし、導入にあたっては能力に見合う適正な利用規模が必要なことを意識し、場合によっては作業の外部委託や作付け作物見直しなど、経営に負担のかからない方法を検討する必要があります。

また、省力化で出た余剰労働力をどう活用し収益を得るのか、それも考えて投資しなければ回収が難しくなります。経営資源に合わせた適正な投資の視点が重要です。

 

農作業機