この記事は2016年12月1日に掲載された情報となります。
酪農家が生産した生乳は、乳業メーカーが製品化しなければ店頭には並びません。今回の指定団体制度の改革案を、乳業メーカー側はどのように捉えているのでしょう。雪印メグミルク株式会社の北海道酪農事務所、若林さんに尋ねてみました。
雪印メグミルク株式会社
酪農部担当部長 兼 北海道酪農事務所長
若林 偉彦さん
乳業メーカーの需給調整
雪印メグミルクの若林さんに、まず牛乳乳製品がどのようにつくられているのか教えてもらいました。
雪印メグミルクは道内に7工場があり、そのうち飲用乳を製造しているのは札幌工場のみで、残りの6工場(幌延、興部、別海、なかしべつ、大樹、磯分内)ではチーズやバター、脱脂粉乳などの乳製品をつくっているそうです。
一方、道外には関東に4、中部に2、関西に3、九州に1と10カ所の工場があり、こちらは飲用・デザート・プロセスチーズなどの工場。地元で集める生乳だけでは量が足りず、北海道から運んでいるといいます。
「道内の生乳はホクレンがまずは飲用乳を優先して道内と道外に配乳し、それ以外を乳製品向けとして各乳業メーカーに配乳します。需給に応じて、日持ちのする脱脂粉乳やバターに加工するなどして、生産者が安心して全量出荷できるよう乳業メーカーも対応しています」
ホクレンを窓口に乳業メーカーが連携
都府県の飲用需要の増加や生産の減少など、大幅な増減が発生した場合、その需給に対応するため、急きょ道外移出の生乳で調整します。
「当社に道外移出の要請がくると、工場間で調整などのやりくりはしますが、時には、よつ葉、明治などと協力し生乳を移出することもあります。こうした面倒な調整を一手に引き受けているのがホクレンの生乳受託課。本来ライバルのメーカー同士が連携できるのも、一元集荷多元販売の指定団体制度がうまく機能しているからでしょう」
では、もし指定団体制度が崩れると、どんな不都合が起こるでしょうか? 若林さんはこう指摘します。
「どこの工場にどれだけの生乳が入るのか分からないと、製造計画がつくれないし、商談もできない。ナショナルブランドの質と量と価格、3つの安定が担保できなくなります」
イギリスの事例から見る日本の酪農
最近、道内でも、指定団体を抜けて、乳価の高い飲用向けのみに販売する団体に出荷する酪農家が少しずつ増えてきました。乳業メーカーはこうした団体をどう考えているのでしょう?
「当社が重要視しているのは『安定的な量』『安心できる乳質』であり、それらを兼ね備えているのがホクレンとの取り引きだと考えています」
また、生乳を卸す団体が複数になれば、競争原理が働き、乳価は下がる方向になりがち。それを補うだけの飲用需要が増加することは考えづらく、酪農家に不利益が生じるのではないかと危惧しています。
「イギリスでは自由競争を促進しようと20数年前に生産者組織を解体し、入札制度が導入されましたが、その後、乳価は大幅に下落。生産者の組織力も低下して、酪農経営は極めて厳しい状況だと聞きます」
なにより大切なのは、地域の持続可能性
「たとえばメガファームが自社で10トンのタンクローリーを仕立てて工場まで運んでくれれば、歓迎する乳業メーカーがあるかもしれない。でも、それではほかの酪農家の輸送コストが増えて経営が成り立たない。地域が衰退したら、乳業メーカーだって結局、工場をたたまざるを得なくなる」
だから、若林さんは目先の利益ではなく地域の持続可能性を一番に考えるべきだと感じています。家族経営から法人化しているメガファームまで、いろんなタイプの酪農家がバランスよく共存する地域を永続させるためには、どうすればいいのでしょう。
「将来的なグランドデザインを提示せず、指定団体制度の是非を問うような拙速な判断は避けてもらいたい。我々はもはや国内で競争するよりも、海外とどう戦っていくかを考えるべきでしょう。国内と海外の乳製品価格差が広がることで、国内乳製品は消費者の支持を失って安い輸入品に入れ替わる。つまり生乳生産が増えなくても余るようになる。そんな最悪のシナリオだってありうるわけですから」
雪印メグミルクはもともと生産者が出資して組織した企業であり、酪農業とは共栄共存の関係ですが、若林さんは「スムーズな連携には指定団体の存在が欠かせない」と断言しています。