森下税理士が分かりやすく教えます!

事業承継Q&A

贈与税や相続税に関する納税猶予の特例措置など、事業承継にまつわる税金についての疑問を森下税理士にお聞きしました!

この記事は2021年2月1日に掲載された情報となります。

税理士法人アンビシャス・パートナーズ
代表社員税理士 森下 浩さん

税理士法人アンビシャス・パートナーズ
代表社員税理士 森下 浩さん

Profile:北海道大学 大学院農学研究科修士課程修了。農林漁業金融公庫(現・日本政策金融公庫)を経て2012年に税理士事務所を開業。雑誌「ニューカントリー」に「教えて税理士さん!」を連載しているほか、北海道農業経営相談所(北海道農業公社)のコーディネーターとしても活躍中。

Q1 事業承継すると税金がかかりますか?

A. 贈与税と相続税が発生します

子どもが親から資産を受け継ぐ際には、贈与税や相続税がかかります。これらの納税を猶予する特例措置(Q3参照)がありますが、適用を受けるにはさまざまな要件があります。親が亡くなった後では対応できる制度は限られるので、親が元気なうちから将来を見据えて対策を進めることが重要です。

Q2 何が課税の対象になりますか?

A. 農地以外も税金はかかります

親から事業用資産を子へ引き継ぐ時、農地については以前から贈与税・相続税を猶予する特例措置がありました。しかし、それ以外の宅地や家屋、機械や車両、現金・預金、棚卸資産(出荷前の生産物など)、家畜や果樹なども一定の方法で評価され課税の対象になります。特に畜産は家畜の評価額が高額になるので、多額の税負担になることがあります。

Q3 「個人版事業承継税制」とは何ですか?

A. 親から事業を譲り受けた時にかかる莫大な税金の納税を猶予する制度です

農地は納税猶予の制度がありましたが、農地以外の宅地や建物、機械、車両、生物(搾乳牛など)などを親から譲り受けた場合、莫大な税金がかかり、事業の継続に支障をきたしかねないことが以前から問題視されていました。そこで、個人事業者に対し、こうした納税を猶予するのが2019年度の税制改正で創設された「個人版事業承継税制」です。

「個人版事業承継税制」とは、現経営者が所有する事業用資産を後継者へ引き継ぐ場合、一定の要件のもと事業用資産にかかる贈与税や相続税を大きく軽減する特例措置です。この適用を受けられないと、将来、多額の税負担を求められる可能性があるので、しっかりと情報収集する必要があります。

Q4 個人版事業承継税制の特例措置を活用するには?

A. 特例措置の適用を受けるには、いくつかの要件があります

まず事業を譲る経営者が、過去3年間、青色申告書を提出していること。申告書の貸借対照表に、対象となる事業用資産を計上していること。また、事業を引き継ぐ後継者の要件としては、農業に3年以上従事していること※。更に2024(令和6)年3月末までに都道府県に「個人事業承継計画」を出して承認を受けることが必要です。

そして2028(令和10)年12月末までに対象資産の全てを後継者に贈与・相続し、事業承継を終わらせなければなりません。この特例措置の適用を受けられないと、トラクターなどの農業機械や乳牛などの生物資産が税金の対象になり、事業を継続できないほど高額な税負担になる可能性もあります。ぜひ早めに準備して、白色申告の方は青色申告への切り換えを進めてください。

※農業高校などの在学期間も含みます。ただし相続の場合は3年未満の従事でも可で、先代事業者が60歳未満の場合は相続開始後の従事でも可となります。

Q5 ほかに節税となる方法はありますか?

A. 「時間をかけて少しずつ」がポイント

歴年贈与が活用できます。生前に親から子へ財産を贈与する場合、年間110万円までは贈与税がかかりません。例えば毎年100万円ずつ10年かけて子どもに1,000万円の資産を非課税で譲ることができます。もし事業承継時に1,000万円を一括で子どもに渡すとなると税率は30%。基礎控除の90万円を引いて210万円の税金を納めることになります。つまり、時間をかけて少しずつ資産を移すのが有利なのです。

※ただし、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産は相続財産に加算されます。

Q6 生命保険も節税になるって本当?

A. 一人当たり500万円まで相続税が非課税

生命保険は、法定相続人一人当たり500万円まで相続税が非課税になります。例えば夫婦と息子・娘の4人家族の場合、夫が亡くなると、妻、息子、娘の3人が法定相続人となり、合計1,500万円までは相続税がかかりません。これを活用し「一時払い終身保険」に3本加入する手があります。預金で持っていたら相続税がかかりますが、保険なら一人当たり500万円までは非課税。JA共済などもあるので検討してみましょう。